「お、お、遅くなって、大変申し訳ないですっ…」

息を切らしながらオルタンスの執務室に駆け込むと、そこには既に先客がいた。

三番隊のアドルファスであった。

え、何でこの人まで…?ってかよく出てくるなぁこの人。

「気にするな。忙しいところ呼びつけて悪かった」

「あ、いえ、はぁ…」

忙しいところ…昼寝してただけですけども。

昼寝に忙しかったということにしておこう。

「何だ、その前髪。イメチェンか?」

アドルファスは、ヘアピンで留めた俺の前髪について指摘した。

目敏いな。言うなよそういうことを。

「まぁ…いえ、そういう訳じゃないですけど…。ちょっと邪魔だったんで」

まさか寝癖ですとも云えないので、曖昧に誤魔化した。

「ふーん?」

何かを勘繰ってにやにやするアドルファスは気にしないことにして、まず用件を聞こう。

「それで、何か?」

そもそも何故、アドルファスまでいる?

「二人共、そこに掛けてくれ。飲み物でも用意させよう」

オルタンスは応接用のソファを指差して言った。

え。何それ。長い話になるってことじゃないか。

長説教されるの?俺。やめて欲しいんだけど。

いやでも、アドルファスがいるなら説教という可能性はそんなに高くないか。

「おいおい。男三人でお茶会かよ」

アドルファスは呆れたように言った。良いことを言ってくれた。今日だけは。

この面子で優雅にお茶会なんて、俺の胃に穴が開くだけだ。

「済まないな。二人共コーヒーで良いか?」

「あ、いや、あの…俺コーヒー飲めないので、出来ればそれ以外で…」

「分かった」

「お子様だな」

アドルファスは無視だ。無視。

悪かったなお子様で。コーヒーを飲むと、てきめんお腹痛くなるんだよ。

ブラックなんて苦過ぎて無理だし、コーヒー飲むなら、ミルクと砂糖をどっさり投入しないと飲めない。

座りたくないけど座らざるを得ないから、俺は尋問される容疑者の気分で、ソファに腰掛けた。

この時点で緊張ではらはらしてるけど、隣のアドルファスはかったるそうな顔で足を組んでいた。

こいつの度胸みたいなの、俺に分けてくれないかな。五グラムくらい。