「にしてもルル公、超久し振りだなー。なんか背ぇ縮んだ?」

「…縮んでねぇし…。そこは背ぇ伸びた?だろ…」

縮んだかどうかを聞くな。

あと、絶対伸びてるからな。いつまでも伸びないのはルシファーだけだ。

しばらく会わない間にアリューシャも少しは大人びたかと思えば、見事に何も変わっていない。

「で?どうやって逃げてきたの?傘下のお馬鹿がへましたのを庇ったせいで、スパイばれかけたんでしょ?」

「…今それを聞くのかよ…」

先に聞けよ。明らかに背ぇ縮んだ?より大事な質問だろ。

「あぁ、そうだわ。私もそれを聞きたかったのよ」

一通り食事を終えて、優雅に中国茶を飲んでいたアシュトーリアさんが、今気づいたかのように言った。

おいおい…。良いのかそんなんで。

…まぁ良い。聞かれたからには答え、

「なんか、助けてくれた人がいるらしいよ。贔屓にしてた帝国騎士団四番隊の隊長」

何故アイズが答える?

「ウィスタリアの次男とかいう子ね?」

「そう、それです」

「彼が助けたって…それはまた、何故?」

…普通、有り得ないもんな。

アシュトーリアさんの顔も、何かの罠なのでは?と訝っているようだった。

だがあいつには、何の魂胆もないのだ。

「…情に絆されたんだと思います」

「同情してくれたってこと?」

「いえ。単純に、友達だからです」

それ以外に理由はない。

あいつが危険を承知で俺を逃がしたのは、全部、それだけの理由なのだ。

友達だから。

「彼が裏で手を回してくれたお陰で、特に疑われずに騎士団を抜けることが出来ました」

「…そう…」

まぁ、時期が時期だからな。

内通者騒ぎが起きている只中での退役だ。もしかしたら、何かあるのではないかと勘繰られているかもしれないが。

その辺りも、ルシファーが良いようにしているのだろう。

普段はすぐにだらだらして、ティータイムだ何だと俺のもとにサボりに来る癖に。

こういうときだけは、恐ろしく仕事が早い。

基本的に、本気を出せば奴は優秀なのだ。

滅多に本気を出さないだけで。

「あなたがそこまで信用してるなら、きっと大丈夫なんでしょう。ただ…一応警戒しておくに越したことはないわね」

「…申し訳ありません。任務に失敗して…」

事情はどうあれ、俺が潜入任務に失敗したのは事実だ。

謝って謝りきれることではないが、けじめとして謝罪した。

しかし。

「あなたはよくやってくれたわ。謝ることはない。当初の目的は充分果たせたのだから、どうせそろそろ引き上げようと思っていたのよ」

「…」

アシュトーリアさんは全く気にしていないようだった。

…そう言ってくれるだろうとは思っていたけど。

「ウィスタリアの次男…確か、ルシファーとか言ったかしら。随分良い子なのね。是非会ってみたいわ」

「…それは、さすがに…」

「そうね。会うことは難しいでしょうけど…。でも、ルルシーを助けてくれたのはあの子だわ。感謝しなくちゃ」

感謝…か。

アシュトーリアさんの言う通りだ。もし今度、また彼に会うことがあったら。

そのときは、俺は…。