ーーーーーー…ルシファーは、まるで嘘を言っているようには見えなかった。

この状況で、俺を罠にかけても意味はない。

それでも逃げろと言うなんて。

内通者をみすみす、故意に逃がしたなんてことがばれたら、ルシファーだってただでは済まない。

それはルシファーだって、重々分かっているはずだ。

その上で、リスクを分かった上で、逃げろ、と。

正気の沙汰とは思えない。

ただ、情だけで動いているのだ。

本当に、こいつは。自分が騙されていたとも、利用されていたとも思ってない。

俺はそこまで舐められているというのか。

…単純に、信用しているのだ。

俺を。馬鹿みたいに、本当の親友だと思い込んでる。

…それなのに俺は、彼を笑うことが出来ないのだ。

「…お前を選んだのは、失敗だったよ」

戻れるなら、あの騎士官学校時代に戻りたい。

絶対に、近寄ってはいけない男だった。触れてはいけない心に触れて、触れられてはいけない心に触れられた。

「そうですか。残念でしたね」

「…ルシファー」

「はい、何ですか」

もう、こうなったら。

彼に全部任せるしかない。

「無理はしなくて良い。無理しない範囲で…助けてくれるか」

「えぇ、勿論」

何を当然のことを、と言わんばかりの笑顔で、ルシファーは答えた。

全く、こいつは本物の馬鹿だ。

けれど俺にとって、どれだけ頼もしい存在であることか。

「…ところで、見返りを求めるつもりはないですが、一つだけお願いしても良いですか?」

不意に、ルシファーはそう尋ねてきた。

お願い?

「何だ?」

俺に出来ることなら、何でもするつもりだが…。