…ルシファーは、気づいていた。

俺の正体が、何者かということに。

いつの間に気づいたのか。いつから気づいていたのか。

彼は昔から聡い人間だった。鋭い人間だった。そして、誰より俺の傍に長くいた人間だった。

だから、気がついたのだ。

…俺が、『青薔薇連合会』のスパイだということに。

俺はルシファーに拳銃を向けた。今ここで、全部ばらされる訳にはいかなかった。

まだ何も準備出来ていないのだから、今ばらされるのは駄目だ。

拳銃を向けられたというのに、ルシファーは全く動じなかった。

相変わらず、涼しい顔をしていた。

「…あなたに撃てると思ってるんですか?」

挙げ句、そんなことを聞いてきた。

…俺には撃てない、って?

「…俺は『青薔薇連合会』に命を救われてる。彼らは恩人で、家族で、俺の生きる理由なんだ」

「そうですか」

「だから、彼らに迷惑をかける訳には…」

「…じゃあ、撃ってください」

何だと?

「あなたに撃てるなら撃ってください。どうぞ。あなたに殺されるなら本望です」

「…」

…嘘を、言っているようには見えなかった。

本心なのだ。それだけ、俺には撃てないという確信があるのか。

馬鹿だ、こいつは。俺という人間を、この期に及んでまだ信じるのか。

俺は『青薔薇連合会』なんだぞ。非合法組織の一員で、アシュトーリアさんのお気に入りで、だから俺は、帝国騎士団の人間なんて。

躊躇いなく、殺せるはず。







…それなのに。








…どうしても、引き金を引くことが出来なかった。