「…ルシファー…。お前…」

「…？ルキハさん？」

彼は、嘘をついてはいなかった。

本当に…本当に忘れているのだ。

学生時代に、何があったのか。あの学生寮での出来事も。

忘れたかったことなのだろう。彼にとっては。

忘れなければ、生きていけないほど…辛い記憶だった。

それは分かる。忘れたい過去なら、俺にもあるから。

けれど…本当に。

本当に、忘れてしまうなんて。

「…いや、良いんだ」

そうか。ルシファー。

お前が忘れたいことなら…それは、忘れた方が良いことだ。

「気にするな。何でもない」

「…そうですか？なら、良いですけど…」

無理に思い出す必要はない。あんな人間のことを…忘れられるなら、忘れれば良い。

このまま、一生彼がこのことを忘れたまま生きていけることを、俺は心から願った。