「…なんて格好してんだ?お前…」

「あ…アドルファス殿…」

三番隊隊長、アドルファス・ウィズ・ダルタニアンであった。

彼はドレスアップした姉さんを見て、ぎょっとしたような顔をしていた。

この人を驚かせるなんて、さすが姉さんだ。

「何がどう血迷ったらこんな格好に…。あ、おいリーヴァ、ちょっと来てみろ」

目を白黒させるアドルファスは、近くでシャンパンを片手に持つ六番隊の隊長、リーヴァを掴まえた。

何故彼を巻き込む?

「なん…!?」

リーヴァはいきなりアドルファスに呼ばれ、何事かと来てみると、そこにはドレスアップした姉さん。

リーヴァは、こちらもぎょっとしていて、グラスのシャンパンが激しく波打っていた。

「姉さん綺麗でしょう?綺麗でしょう?」

「あぁ…。驚いた」

リーヴァは素直に感想を口にしたが。

「馬子にも衣装って奴だな」

アドルファスはひねくれた感想を言った。姉さんは特に気にしていないようだった。

「ルシェ殿はこのような格好は好まないのだと思っていたが…」

「俺が勧めたんですよ。ドレス着てみません?って」

「へぇ…。それで素直に着てくれたのか」

「殴られましたけどね」

おまけに耳まで引っ張られました。しかも両耳。

そして今ブルーベリーチーズケーキも吹っ飛んだ。姉さんにこの格好をしてもらうのに費やした犠牲は大きい。

「動きにくくてかなわん。もう二度と着ないからな」

姉さんは不満げに言った。えぇ。勿体ない。

「…そういえばルシファー殿も制服ではないんだな」

「制服は…ちょっと事故に遭いましてね」

「…?」

その経緯を説明するのは恥ずかし過ぎるので、誤魔化しておくとして。

今は、姉さんの尊き美しさを堪能することにしよう。





「…ところで、ルシファー殿」

リーヴァは非常に言いづらそうに、俺に話しかけた。

「はい?」

「その…右手に持っている、菓子の皿だが」

「はい」

俺の、夢一杯スイーツが何か?

「…どうするんだ?それ」

「え?食べますけど」

「…誰かと?」

「いや、一人で」

「…」

「ちなみにこれ、おかわり分です。既に一皿食べましたから」

えへんっ、と自信満々に答えると、ルキハは目を逸らし、アドルファスは半笑いで、リーヴァは無言だった。

次の瞬間、俺は姉さんにしたたかに頭をはたかれたのであった。