The previous night of the world revolution

…とはいえ。

いくら決死の努力をしようとも、エベレストを一日で登りきるなんてことは不可能であるのと同じように。

この恐ろしい量の書類を、一日で捌ききるのは勿論不可能であった。

不眠不休でやり続けたって、一日の時間は皆等しく限られている訳で。

だらだらと怠けて過ごそうが、目まぐるしくペンを走らせながら過ごそうが、過ごしている時間は変わらない訳で。

出来ないものは、出来ない。

二時間以内に徒歩でルティス帝国東端にあるエルマンタリア基地に行ってくださいと言われても、例え陸上選手が二時間全力疾走したところで、物理的に無理な話。

同じように、俺も無理だった。

そもそも常識的に考えて無理だろう。

そうだというのに、約束の刻限が来ても半分ほどしか捌けてない書類の山を見て、シャルロッテさんは嫌悪感の滲み出たしかめっ面であった。

いや、そんな顔されても…。

大体入社二日目から残業六時間越えなんですが。その辺のブラックな労働時間は無視なんですか。そうですか。

隊長なんて定時に上がれる訳ないのは分かりますが。もう少し労働基準法的なものを守る遵法精神は持ち合わせていないものか。

国のトップに等しい帝国騎士団がそれで良いのか。示しがつかないじゃないか。

などと頭の中で言い訳したが、これもやはり口には出さなかった。

「…今日までにって言いませんでした?もう日付変わるんですけど」

「…はぁ、済みません…」

「明日の九時に取りに来るので、それまでに終わらせておいてくださいね」

「…」

え。何それ。

お前、朝まで何時間あると思ってるの?

今日一日やってようやく半分終わったんだよ?あと半分、朝の九時までに終わらせられるとお思いで?

計算出来ないのかな、この子。

俺は心底ぽかんとしていたのだが、シャルロッテさんは憮然として執務室から出ていった。

…まさかの。入社二日目にして、オールで残業。

こんなブラックな企業が、他にあるだろうか。