…ルシファーの家を出て。

身を寄せているティグラーダ家の使用人に迎えを頼んだのだが。

「…やぁ、お疲れ様」

「…」

乗り込んだ車の運転席に座っていたのは、なんと俺の家族であった。

「…何をやってんだ、お前…」

「お迎え。ドライバー」

「良いから早く出せ。怪しまれる」

「はいはい」

わざわざ門のところまで見送りに来てくれたルシファーに軽く会釈して、車が発進する。

邸宅の敷地を出るなり、俺はドライバーに…アイズレンシアに食って掛かった。

「お前はアホか。ウィスタリアの邸宅だぞ?」

マフィアの人間が入り込むなんて、正気の沙汰とは思えない。

「大丈夫。今の私はあくまでもティグラーダ家に雇われたしがないドライバーだから」

「…ったく…」

アイズのことだから、色々根回しした上で来てるんだろうけど。

肝を冷やすような真似をするなよ。

「で?君は何してるの。ウィスタリアの人間と仲良くしてるのは、情報を聞き出す為?」

「…あいつの実力は隊長連に匹敵する。仲良くしておいて損はない」

「ふーん…」

「それに…単純に良い奴だからな」

どうせ付き合うなら、一緒にいて楽しい人間の方が良い。

「君は甘いなぁ。ドライに付き合えないんだ」

「…」

「あまり入れ込まない方が良い。もし全部ばれたら、そのときは…君が傷つくことになるから」

「…分かってるよ」

「…なら良いけど」

全部ばれたら、か…。

…有り得ないとは、言えないよな。

そんなときのことを、考えたくはない。アイズの言う通り、俺は甘いんだ。

「…そうだ。俺、この間…帝国騎士団長に会ったぞ」

「あ?」

アイズがいきなりブレーキを強く踏み込むものだから、俺はつんのめって額を前の座席の背中部分にぶつけてしまった。