…何故。

何故、姉さんがここに。

そんなの聞いてないよ。

「い、いつ戻ってきてたんですか…?」

「ついさっきだ。三日ばかり休みをもらってな」

「へー…」

「…」

…何だろう。

…この、気まずい感じは。

ただ、物凄く嫌な予感がするのは確かだ。

「…それで?私がいると何だって?」

「…いや…なんか言いましたっけ?俺…」

ここは誤魔化しだ。なかったことにしてしまおう。全てを。

しかし。姉さん相手にそんなものが通用するはずないので。

…とりあえず、一発ぶん殴られた。

あまりの痛みに悶絶しているのを、ルキハは我関せずと眺めていた。

おかしい。この人、俺の親友だよね?

「…と、まぁ馬鹿な弟への教育はこれくらいにして…。お前は先日見たな」

「どうも」

俺に鉄拳制裁を食らわせてから、姉さんはルキハと向き合った。

俺を殴る前にやれよ、それ。

「ルシファーの友人か」

「一応、そんな者です」

一応って何ですか。

「遊びに来いとルシファーが言うので、お邪魔してます」

「そうか…。悪いな。貴重な休暇をルシファーの為に使わせて」

「いえ、俺も時間を潰す相手が欲しかったので」

俺が痛みに悶絶してる間に、二人が仲良くなってる。

ちょ、俺を置いていかないでくれ。

「…失礼なことを聞くが、名前は?何処の家の者だ?」

姉さんがそれを聞くと、ルキハは一瞬、ほんの一瞬だけ…不愉快そうな顔をした。

…ルキハは、いつもそうだ。

自分の家がさして名のある貴族ではないから、名前を聞かれると少し、気分が悪そうな顔をする。

俺としては、そんなことコンプレックスに感じる必要はないだろうと…そう思うのだが。

それは俺が大貴族様の生まれだからそう思うのであって、ルキハからしてみれば、大事なことなのだろう。

「…ティグラーダです。ルキハ・シェルシュ・ティグラーダ」

「そうか」

ルキハの出が分かっても、姉さんは顔色一つ変えなかった。

姉さんは、相手の出身が何処であろうと、生まれだけで人を判断する馬鹿な人間ではない。

たまにいるのだ。貴族の中には。名家の出身であるというだけで、偉そうに威張り散らす馬鹿が。

姉さんは、そういう類の人間ではない。

「…それでお前は、ルシファーに付き合わされて、そんな歯が溶けるようなものを食べさせられている訳か」

「えぇ、そうなんです。何とかしてくれませんか。俺ももう歯が溶けそうで」

「男の癖に甘いものばかり食べ過ぎなんだ、こいつは」

「俺もそう思います。前世はアリかミツバチじゃないかと」

「ちょ…俺の悪口で盛り上がらないでもらえます?」

俺の前世、昆虫じゃないから。

あと、スイーツ好き男子は世の中に多いぞ。俺はその代表だ。

そうだというのに、何故分かってもらえないのか。

味方なはずのルキハまで姉さんに寝返ってるし。

良いんだ。俺には甘いものがある。これが俺の、永遠の味方だ。