The previous night of the world revolution

…咄嗟に受け止められたのは、正に訓練の賜物であった。

ただ、腕が折れるかと思った。

「…よく受けたな」

どうやら、あわよくば一撃で俺を撃沈させようとしたらしい騎士団長様は、自分から攻撃しときながら、ちょっと驚いていた。

「死ぬかと思いましたよっ…」

姉さんより、遥かに重い。しかも速い。悪魔かこの男。

こりゃ本気でやらないとやばいと、俺は防戦から転じて、攻勢に出た。

だってもうそうするしかない。こんな重い一撃、何度も受けてたら俺の腕が死ぬ。

守ってても勝てないんだから、じゃあ攻めるしかない。

しかも俺は、スピードだけなら姉さんより上なのだ。

ちょこまかと卑怯な…そう。さながらゴキブリのごとく、素早く、いやらしく攻めていく。

とにかく必死だった。もう死物狂いだった。

だって死物狂いにでもならなきゃ、うっかり骨の一本持っていかれそうなんだから。

頭の中身を空っぽにして、剣を振るった。

…が、俺がどんなに頑張ったところで、まず勝てる訳がないので。

攻防の末、騎士団長様の剣が、俺の右手の剣を弾き飛ばした。

宙を待った剣が、稽古場の床に転がった。

…勝負あり、か。

…まぁ、分かっていたけれども。

そこで騎士団長様は、これで終わり、みたいな顔をした。

途端に、俺はふと閃いた。

相手が自分の上司だということを、このときばかりは忘れていた。

単純に、良いようにのされたのが気に入らなかった。

俺が追撃に出たのは、それだけの理由である。

終わったと見せかけて、俺は思いっきり前進した。

そして、残った左手の剣だと力が弱くて多分受け止められるなぁ、と思ったから。

代わりに、渾身の回し蹴りを繰り出した。

剣の戦いに手足を出す。騎士道に反すること甚だしいが。

俺の諦めの悪さといったら、殺虫剤噴かされたゴキブリ並みなのである。

もしかしたら俺の前世は、ゴキブリなのかもしれないと思った。

そんなゴキブリ戦法で繰り出した回し蹴りであるが、さすがの帝国騎士団長、一瞬対応は遅れたものの、最低限の防御はしてきた。

それでも、捨て身の特攻攻撃だ。よろめいて膝をつく騎士団長に、更に追撃をしよう…としたのだが。

その前に、騎士団長は床に落ちていた俺の剣を拾い、柄の部分を向けて、俺に向かって思い切り投擲してきた。

これには俺も反応出来なかった。

柄の部分と言えど、思い切り投げられたらそりゃ痛い。腹に直撃を食らって、こいつは鬼か、と思った。

いや、でも先にやったのは俺か。

だがこれで、両手に剣が帰ってきた。

腹のダメージが重過ぎるが、さて、どうなることやら。



…と、思った瞬間。

背中から、冷たい殺気を感じた。