…さて、そんな不穏な会話をしている人間がいることも知らない俺達卒業生は。

「はぁ、緊張した…」

「お疲れ。頑張ってたな」

教室に戻るなり緊張の糸が切れた俺を、ルキハが労ってくれた。

何に緊張したのかと言うと、毎年首席卒業生が行う、卒業生答辞、である。

「一回も噛まないしどもらなかったじゃないか」

「まぁ…ルキハさんが毎日練習、付き合ってくれましたからね」

彼が毎日付き合ってくれてなかったら、絶対途中で五、六回噛むか、あるいは緊張のあまり壇上で失神していた自信がある。

「堂々としたもんだ。皆感心してたと思うぞ。あれが今年の首席か、って」

「…」

「本当に、頑張ったな。ルシファー」

「…ありがとうございます」

それもこれも、全部。

俺がこの学校を、心を壊さずに卒業出来たのは…全部。

ルキハのお陰だ。間違いなく、彼のお陰だ。

「…今日で、しばしのお別れですね」

「そうだな。同じ隊に配属されれば良いんだが…」

「どうですかね」

卒業してしまえば、もう毎日顔を会わせることはない。

四月からお互い、正式に帝国騎士団に入団するから、その先で会うことはあると思うけど。

でも、騎士団も大所帯だから…同じ隊に配属されでもしなければ、毎日は会えないだろう。

同じ隊に配属されたとしても、毎日会えるかは分からない。

「四月までの休暇は、ルキハさん…。実家に帰るんですか?」

「あぁ、ずっと帝都にいるよ」

「じゃあ、うちに遊びに来てください。一緒にお茶でもしましょう」

四月まで、一週間程度休暇がある。

俺は実家にいてもつまらないだけだから。ルキハか遊びに来てくれると嬉しい。

「分かった。手土産は何が良い?どうせ甘い物だろう?」

「あはは…。任せます。手ぶらでも良いですよ」

などと、和やかに会話していたところ。

「ルシファーさん、ちょっと」

俺に、呼び出しがかかった。