「何でもない」
私はごまかした。

沙織にはきっとバレてる。

「何でも言ってね」
沙織は笑顔で言った。




「蒼〜この前言ってた、パンケーキ食べに行こうよ」
馴れ馴れしく、話しかける声が聞こえる。

蒼の幼馴染みで学年イチ美人とされる藤井菜奈だ。

背も高くスラッとしてて、蒼と並ぶとお似合いだ。

「うん、行こう」
蒼の声が聞こえて。

ずっと今まで普通に聞いてた会話だし、2人が一緒に帰る姿も見かけてて、違和感なんてなかった。

何とも思って無かったのに。
胸の奥がギュッとなる。
胸ねあたりが、ざわざわして、どうしようもなく苦しくなった。

そっか、そうだよね。

何でこんな当たり前のことが、いちいち気になるんだろう。



蒼が遠くなってく。




モデルにもなって、彼女までできたら、友達の私のことなんか気にも留めなくなるんだろうな。

何だか寂しい。

一緒にクレープ食べたことも、
蓮君説得してくれたことも。
私に告白してくれたことも、
キスしたことも。

もしも、もう一度告られる場面に戻れたとしたら、今の私だったらどうしてたんだろ。


もう、そんなことあるはずない。

蒼の周りには女子がたくさんいる。


どこのパンケーキ屋なんだろう?
蒼と菜奈はどんな話するんだろ?
楽しそうな2人が浮かぶ。

キスなんかするんじゃなかった……もっと気になるじゃん。