蓮君が通りかかって、
「おはよ」
そう言った。

蓮君はわたしと蒼が話してたのが気に入らないのか、ちょっと不機嫌そうに私の腕を引っ張った。

私はびっくりした。

蒼は蓮君を一瞬見つめ、離れるように歩き始めた。

蒼から少し離れた場所まで行くと、手を繋いできた。

「俺さ、言ったよね?」
強い口調で蓮君は言った。
低めの声が響く。

「あのさ蓮君……蓮君も女の子と楽しそうに話してるの見たよ」

「だから?」
蓮君の見たこともない表情だった。
繋いだ手に力が入る。

ちょっと痛い。

「蒼は友達だから…」

「俺にも友達いるから」
そう蓮君は言った。

サッカーで活躍する蓮君を見てるのが好きだった。
声も大好きなのに……今日は怖い。

何でだろ?蒼が気になる。
蓮君の肩越しに蒼の背中を私の視線が追った。

頑張る蒼のことを応援したかったのに。
蒼とはいつでも話せるけど。
どうでもいい話するのが楽しかったのに。

蓮君が廊下の人けのない場所でキスしようとしてきた。

遠くからいつも少し日焼けしてる蓮君を見つめてた。
遠くて近くで見つめたくて…
けど別れて見ないようにしてた。

大好きで……やっと想いが通じたと思ったのに。
今は、目の前で見つめてくれて。

私はそれをとっさに避けた。

繋がれた手を離し反対側に向いた。

何で……?

そんなことしたら、どうなるかなんか考えなかった。

本当に嫌われるかもしれない。

またフラれるかもしれない。

もう、あんな辛い思いしたくない。

ただ、私にはキスできなかった。