海よりも深くて波よりも透明

「負けた夏葉が支払いね」

「はいはい」



おばあさんにお金を渡してから駄菓子屋を出た。



「夏葉、あーして」



穂風が俺を見上げて言う。



「あ?」



開いた俺の口に、穂風がイカゲソを突っ込んできた。



「おっさん~」

「うっせえガキ」



穂風の方の口には20円のペロペロキャンディ。



どんなカップルだよ…。



それから少し歩いて駐車場まで戻った。



さっきまでそれなりにいた人はもういない。



駐車場からは堤防を挟んで海がよく見える。



海に落ちかけている夕陽が綺麗だ。



俺の先を少し駆けて堤防に行く穂風。



海を眺めてる。



俺はそのままの歩幅で穂風に近づき、後ろから軽く抱きしめた。



「へへ」



穂風がちょっとはにかんで、俺の腕に触れる。



そんな穂風の頬に一瞬キスした。



「も~」



そう言って振り向く穂風に、今度は口に一瞬キス。



「…」



穂風は何も言わずにまた正面を向いた。



怒ったか?



「もう、そんなことされたら好きの気持ちで窒息する…」



穂風がぼそっと言った。



…まじで可愛い。



穂風のことをもう一度強めに抱きしめなおした。



だが、俺の腕の中で、穂風がくるっと体をこっちに向ける。



腕を俺の腰に回して期待した顔で俺のことを見てる。



「目から『好き』ってオーラダダ漏れてんぞ」

「夏葉こそ」

「言うじゃねえか」

「へへーんだ」



期待に応えてやるよ。