それから一通り見て、花枝さんに出してもらったお茶とお菓子をいただいてからお(いとま)した。



花枝さんと愛姫に手を振って家をあとにする。



「ついでに送ってく」



夏葉が言った。



「そのつもりに決まってるじゃん~」

「当たり前ってか…」



花枝さんとあたしの家は歩いて20分くらいのところにある。



夏葉とゆっくり歩き出した。



なんか…手繋ぎたいかも…。



こんなに近くの距離にいて。



少し伸ばせば触れられる距離。



他愛もない会話をして夜の道を海の匂いに吹かれながら歩いてる。



なんか好きすぎて胸が苦しい…。



触れればこの苦しさを少しでも溶かすことができるのかな。



夏葉に手を繋ぎたいと言おうかどうか迷っているうちに家に着いてしまった。



「じゃあな」



夏葉がそう言って背を向けて引き返した。



行かないで…。



咄嗟に夏葉のシャツの裾を軽く引いた。



夏葉がぴたっと止まってゆっくりとあたしに振り返る。



月明かりに照らされる夏葉の顔。



ああ…好き。



上目遣い気味に夏葉を見る。



手を繋ぐどころか、キスがしたい。



あたし達の時間が静かに止まった気がした。



間に流れる潮風。



夏葉の顔が少し近づく。



鼓動の音がバクバクとうるさい。



もう少し…。



背伸びしようとしたそのとき、夏葉の手があたしの顔に伸びて、あたしにデコピンした。



「…」

「ガキは早く帰って寝ろ」



夏葉はそれだけ言って、くるっと向きを変えて歩いて行ってしまった。



月明かりに照らされた夏葉がどんな表情だったのかはわからなかった。



だけど、あたし、はっきりわかった。



その日あたしは、『夏葉と付き合いたい』ってメールをリアに送った。