だが、次の日、準々決勝。



8人の選手が、2人ずつで4ヒート(※同じ波に乗る選手の組み合わせ)に分かれてトーナメントで戦う。



そこで準決勝に上がれるのは、各ヒートで勝ち抜いた4人の選手。



最初のヒートは愛姫とイタリアの選手で、杉下真恋は2ヒート目。



穂風は3ヒート目だ。



愛姫のヒートがはじまった。



愛姫はいつも通り気迫に満ちた波乗り。



技のレベルも高く、コーチングの成果が感じられる。



愛姫のポイントは、13.92。



かなりの高得点だ。当然、同じヒートのイタリアの選手には勝利。



愛姫が準決勝に上がることが決まった。



つづいて、2ヒート目。



杉下真恋が波に乗り始めた。



杉下真恋は、波の読み方と作戦の立て方がうまいという印象。



良い波を的確に選んで、綺麗でスムーズに乗っていく。



シャッターを切りつつ、待機している穂風の姿を遠目でちらっと見る。



表情まではよく見えないが、じっと杉下真恋の波乗りを見つめていた。



ポイントが出た。



杉下真恋は、10.56。もう1人は、7.22。



杉下真恋も準決勝に上がることが決まった。



次は、穂風の3ヒート目…。



俺は穂風の波乗りを見守る。



滑り出しは好調だった。



しかし、途中で少し風向きが変わり、波の状態が若干変化しはじめた。



嫌な予感がした。



その予感通り…穂風のリズムが崩れ始めた。



風向きが変わってからの波選びに失敗し、得点が伸びない。



それで動揺したのか、そこからも調子が悪いまま…。



結果は…。



穂風、11.60。相手選手、12.01。



穂風は…準決勝に上がれなかった。



11.60は決して低い数字ではない。



しかも、杉下真恋よりも高い得点。



相手選手の得点が少しでも低ければ準決勝進出も余裕であり得た。



だけど、今の穂風の精神状態でこれは…。



こんなこと…あるかよ。



結果が出て、その場で呆然とする穂風。



その場から動けなくなっている。



たまらずに、カメラを置いて穂風のところに駆け寄った。



周りに見られているが、気にしない。



穂風をそっと抱きしめた瞬間、穂風がせきを切ったかのように号泣しはじめた。



「よく頑張った」



そう言って穂風の後頭部を撫で続ける。



メディアのシャッターの音がいくつも聞こえる。



このままこの場に居続けるのはよくない。



「穂風」



そう声をかけて、穂風の手をそっと握った。



「歩けるか?」



否定も肯定もせず、泣きながら俺の胸にすがる穂風。



心が死ぬほど痛い…。



もう片方の手で穂風の肩に腕を回し、ゆっくりと穂風を歩かせた。



穂風の限界が、ついに越えてしまった。