悠星くんの、『“日本では”絶対王者』とか『杉下真恋』の言葉に、ちょっと心をえぐられる…。



あたしは何も言わず、笑顔を浮かべる。



引きつってないか心配だ…。



「まあな。でも悠星はそれで安心せず、お前が男子の絶対王者になるくらいのつもりでいろよ?」



あたしの気持ちに気づいたのか、夏葉が話を逸らしてくれた。



テーブルの下で夏葉の手をそっと握ると、夏葉があたしの指を優しく撫でてくれる。



夏葉はあたしの安定剤だな…。



それからたっぷりご飯を食べて花枝さんの家を出た。



悠星くんは原付で家に帰り、あたしと夏葉は手を繋いであたしの家まで歩き。



もうすっかり冬で、帰り道は寒いから、夏葉のポケットに手を突っ込んだ。



「夏葉ってあたしのことなんでも分かってるんだね」



何気なくあたしが言った。



「好きな女なので」



そんな風にはっきり言ってくれる夏葉が大好きだ。



ちょっと弾んだ気持ちで夜道を歩き、何気ない会話。



「夏葉お仕事増えたでしょ?」

「おかげさまで」

「引っ越さないの?」

「引っ越すより板増やしてえ」



あの家のどこにこれ以上板を置くスペースがあるんだろう…。



気持ちは分かるけどね。



夏葉の知名度がちょっと上がって、お仕事も増えて。



それでも変わらない夏葉が嬉しい。



話してたら、あっという間にあたしの家に着いてしまった。



この時間がいつも寂しい。



家の前で夏葉にぎゅっと抱きついた。



2人ともコートを着てるからもどかしい…。



もっと夏葉に触れたいのに。



夏葉があたしの頬を両手で挟んだ。



手のひらの熱が体温を少し上げる。



夏葉がそのままあたしの唇に一瞬キスした。



「ん。さみいからもう家入んな」

「うん…。またね!」

「ん」



夏葉に手を振って家に入った。



寒かったはずなのに、身体がぽかぽかしてる。



海が気持ち良い夏が大好きだったけど、冬も冬で良いかもしれない…。