~夏葉~

今日はついに世界大会当日。



波のコンディションも良く、絶好のサーフィン日和。



今回の大会は、来年開催される夏のオリンピック出場選手の予選にもなってる。



穂風はワールドランクがそもそも高いから、オリンピックの出場はほぼ確定してて。



今回の大会の成績次第で出場できるかどうかが確実に決まる。



ちなみに、来年5月にも世界大会があって、8月のオリンピック出場選手の最終予選になる。



選手たちは相当気合い入ってる様子だ。



場所を取って機材を準備していたらたまたまカイが近くにいた。



お互い軽く片手を上げて挨拶。



穂風は気づいてないだろうが多分あいつは穂風のことが好き。



俺への敵意感じるし。



俺の彼女はモテますねえ…。



機材の準備が終わり、海岸の様子を撮影していると、遠くの方に穂風が見えた。



レンズから顔を上げる。



俺が見ている方向をぱっと見たカイが穂風に気づいた。



穂風もこっちに気づいたので軽く手を振ると、穂風も振り返す。



その様子を見たカイが俺の方を見て口を開いた。



「(穂風、本番前って昔からすごいピリピリしてるからあんま声とかかけない方が良いよ。当たられるから)」



ん、マウント取られた?



ニコニコ笑っているカイ。



なんか感じ悪ぃけど、まあどうでもいい。



カイを無視して穂風の方へ向かうと、穂風の方が俺に小走りで近づいてきた。



小型犬みてぇだ…。



俺の手前でちょっとつまずき、俺の胸に捕まって体勢を直す。



そのままちょっと不安そうな顔で俺を見上げた。



「緊張やばい…」

「ん」

「ぎゅってして?」

「はいよ」



言われるがまま、穂風を軽く抱きしめる。



体を離すと、さっきより和らいでいる表情。



俺にそんな安心する穂風が愛おしい。



穂風の頭を片手でぐしゃっとした。



そのとき、穂風の耳に光るピアスが見えた。



「これ」



耳たぶに触れる俺。



穂風がへへっと笑った。



「そう! 大会に合わせて下ろしたの!」



誕生日に俺があげたピアス。



俺が今耳にしてるのと同じやつ。



「相変らず可愛いことしてくれんね」

「えへへ! じゃああたし頑張ってくるね!」



そう言ってから俺の唇に一瞬キスして、穂風は逃げるように元の場所に戻った。



ったく…。



俺も元の場所に戻る。



カイが笑顔のまま少し苦い顔で俺の顔を見た。



“お兄ちゃん”とは違うんだよ。