捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される

入院中の洗濯物を引き受けて病室から去ろうとすると、「莉子」と引き止められた。

「なに。おじいちゃん」

祖父は私の顔をじっと見る。

「お前、いい顔になったな」
「え?」
「幸せにな」

ニッと目を細めて笑ってくれた祖父の顔はとても嬉しそうで、瞬間、胸がじんと熱くなった。穂高さんが私の背中に手を添えてくれる。斜め上を見上げれば優しい眼差しの彼に見つめられ、さらに目元が熱くなった。

「ありがとう。おじいちゃん、おばあちゃん、また来ます」

穂高さんとの結婚はイレギュラーだらけで、祖父母にもたくさん迷惑と心配をかけてしまったから、まさかこんな風に喜んでもらえるなんて思わなかった。祖父母の寛大な心と、穂高さんへの感謝の気持ちが膨れ上がる。

「穂高さんのおかげですね」
「俺じゃなくて莉子が頑張ったからだろう? それにほら、俺はヘタレだから」
「……もしかして根に持ってますか?」
「いや、佐倉さんにそう思われてもいいけど、莉子にはヘタレだと思われないようにしないとね」
「そんなこと思わないですよ。私の方こそ、穂高さんのご両親になんて思われるか。情けないことばかりで……」
「心配しなくても大丈夫だと思うよ。たいてい佐倉さんの息がかかってるから」
「息がかかる……?」
「さ、行こうか」

よくわからなくて首を傾げたけれど、穂高さんは楽しそうに笑うだけで詳しくは教えてくれなかった。

だけど――

連れられて初めて伺った穂高さんのご実家は、広々とした敷地にいくつもの植栽と母屋がゆったりと建つ。びっくりするくらいに立派な玄関には、穂高さんのお父様とお母様がすでに待ち構えていた。

「莉子ちゃん、よく来たねぇ」
「いらっしゃい、莉子ちゃん。さあ、上がって」
「あの、はい、お邪魔します」

言われるがままリビングへ入ると、テーブルには洋菓子がたくさん出されていて、コーヒーの香りが香ばしく漂う。私が持ってきた手土産の菓子折りが霞んでしまうほどのおもてなしに、どうしていいかわからず穂高さんを見た。