捨てられた彼女は敏腕弁護士に甘く包囲される

昼間あんなに晴れていたというのに、夕方から雨が降り出した。
黒い雨雲がどんどんと流れてくる。

ソレイユの閉店時間が過ぎ、店を片づけて戸締りをする。アパートまではすぐ近くだけれど、さすがに傘なしでは濡れてしまう距離だ。

「莉子、置き傘あったぞ」
「本当?よかった」

一本の傘に二人で入る。雄一が差してくれて、私が濡れないようにと気をつかってくれた。

ケンカ?言い合い?疑い?
なんだっけ、そんなの。そんなこと、あった?

そう思えるくらい、普通に優しい。二人の距離だって、いつも通り。
やっぱり私の思い過ごしなのかもしれない。いろいろと疑心暗鬼になりすぎている。

アパートに帰ると、「ほら、タオル」と雄一がすぐに準備をしてくれて、私たちの間には何も溝がない至って普通の恋人同士に戻っていた。といっても、私の気持ちはもう雄一にはないことはわかっている。

雄一と結婚はしないこと、別れること、そして先日のソレイユを売却する話をきちんと話し合わなければならないとも思っている。

あれ以来、その話題には触れていない。お互いにその話題には触れないようにしているような、そんな気がする。けれど、それさえも私の気にしすぎなだけなのかもしれなくて、考えを改めるべく一度落ち着いて深呼吸をする。

先延ばしにしても仕方がない。ちゃんと話し合わなくては何も前に進まないのだから。

「ねえ雄一、ソレイユのことなんだけど――」

と口にしたところで、ふいに電話がかかってきて、断りを入れてから携帯電話を耳に当てた。

「もしもし?」
『莉子ちゃん?おばあちゃんだけど、あのね――』

祖母からの電話は、祖父が倒れて救急車で運ばれ入院することになったという知らせだった。