「雨が強くなってきたね」
奏でられた声が陽だまりみたいに優しくて、戸惑いながらもあごを下げる。
二人掛けベンチの右側に座った霞くんが、残り一人分の座席に手を置いた。
「輝星も」と促され、目を泳がせながら腰を下ろす。
精一杯の左端に座ってもたものの、右腕がこそばゆい。
霞くんとはリンゴ1個分の距離を保ててはいるものの、僕が傾いたら腕同士がぶつかってしまいそうなほど近くて、心臓もくすぐったくて。
校舎から見えない場所にたたずむ部室棟。
僕たちの背後には壁があり、目の前は景色をぼやけさせるほどの強雨。
僕がドキドキで困惑している間に、ザーザーぶりになっていたらしい。
まるで黒ずんだ雨雲が、僕と霞くんを二人だけの世界に閉じ込めてくれたみたいだ。
嬉しい。
嬉しいはずなんだ。
でも感情が迷宮にでも落っこちてしまったのか……
わからないわからない、自分がどうしたいのか。
霞くんとしゃべりたいのか。ドキドキから逃げたいのか。
心臓を落ち着かせたい。
でも心の爆つきが消えた瞬間、霞くんを独占している夢のような時間は消えてしまうだろう。
やっぱりこのままがいい。
でもハートが苦しい。
二人だけは気まずいよ。
何を話していいかわからないよ。



