意識を保つ限界が来てしまったと、心臓がSOSを出した直後だった。
「ごっ、ごめんね」
霞くんの焦り声とともに、後ろから絡みついていた腕がほどかれてしまったのは。
ぬくもりが薄れていく背中に、さみしいさ混じりの悲哀がわく。
もっと抱きしめて欲しかったのに。
そんなワガママを口にできないのは、霞くんにこれ以上嫌われたくないという思いが強すぎるから。
羞恥心で色づく頬を隠したくてうつむく僕の心臓は、休息を与えてはもらえない。
「輝星が可愛いことを言うから」
恥ずかしさで震えた声にドキリ。
語尾までちゃんと僕の耳に届き、顔面がさらに燃えそうになってしまった。
「雨に濡れないところに行こう」
「え?」
「二人きりになれる場所。ねっ、いいでしょ?」
僕の意見を問うような言い方なのに強引で、僕に拒否権は全くなくて、拾った傘を僕の上に掲げた霞くんは僕の肩に手を回しながら歩き始めた。
もちろん霞くんの腕の中から抜け出すことはできる。
連行を拒否して、僕だけ真っ赤な傘の下から逃げ出すことも可能だ。
でも僕の足は大好きな人に従順なのかもしれない。



