こぼれそうになった涙を瞳の奥に押し戻そうと、唇をかみしめた時だった。
体中の細胞が一斉にキュンと飛び跳ねたのは。
……え?
視界に飛び込んできたのは、足元に転がる真っ赤な傘。
戸惑い揺れる瞳で、情熱的な色味をただただ見つめてしまう。
雨除けがなくなって、雨粒がジャージにしみこんでくる。
でも僕の体があまり濡れていないのは、背後から心地いい熱に包まれているからだろう。
耳にかかる吐息がくすぐったい。
心臓もくすぐったい。
何が起きたの?
緊張で息が止まりそう。
心臓が急停止しちゃいそう。
「嫌なの? 俺とテニスをすること」
切なくも甘い声が、僕の鼓膜を溶かそうとしてくる。
僕の胸元に絡む腕。
背中に感じる胸板。
右頬がやけにくすぐったいと顔を回すと、霞くんの顔が僕の右肩にのっていて、その時初めて、霞くんに抱きしめられていることを脳が理解できた。
ドキドキとバクバクでハートが悲鳴を上げている。
呼吸が乱れ始めたのは、恥ずかしさと嬉しさと困惑が3種同時に責めてきたから。



