「流瑠さんにされてたでしょ? テニスコートから見たんだ、部活中に」
「待って待って、なんのこと?」
「そのあとの輝星……おでこに手を当てながら微笑んでて……」
昨日バスの中でも言われたけれど、まったく心当たりがない。
誰かと付き合ったことすらない僕が、キス経験者になれるはずもなく。
そもそも口づけしたい相手なんて、霞くん以外考えられない……って。
おでこに手を当てた?
調理室で?
ってことは……
「それ、流瑠ちゃんの頭突きだよ」
お願い霞くん、勘違いしないで。
「違うから! キスとかじゃないから! 絶対に違うから! お願い、信じて……」
僕がこぼした弱々しい言葉尻が、傘に落ちる雨音でかき消されていく。
さっきよりも雨が強くなったと今さら気がついたが、そんなことはどうでもいい。
僕の好きな相手は流瑠ちゃんじゃない。
流瑠ちゃんにキスなんかしていないと、霞くんに信じて欲しい。
傘を持つ霞くんが、僕のそばから離れようとしない。
僕が雨に当たらないようにとの配慮なのかもしれないが、この6年間拒絶されていただけにハートがバクバクうなってしまう。



