大好きな人のぬくもりに包まれている時は幸せすぎて冷静に考えることができなかったけれど、霞くんはなんで僕を抱きしめたりなんかしたんだろう。
『危ない』と叫ばれてからのギュッ。
何かから僕を守ってくれたのかな?
いやいや、そんなことはどうでもいい。
キャーキャー飛び跳ねるような黄色い声が四方八方から飛んでくるから、恥ずかしすぎて。
消えたい。
透明人間になりたい。
みんな、テニスコートにいる僕と霞くんを注目しないで。
僕は霞くんに嫌われているんだよ。
頬に刻まれてしまった霞くんのぬくもりを消したい。
力強く抱きしめてくれた彼の腕の圧を消し去りたい。
でも本当は消したくなくて。
ずっとずっと僕の中に残って欲しくて。
宝物にしたくて。
【霞くんの特別は、僕じゃなくて奏多くん】
悲しい現実が苦しくてたまらなくなった僕は、萌え袖からちょっとだけはみ出す指たちで顔を押さえた。
「つーか、女子たちはしゃぎすぎ。耳痛いんだけど」
靴を引きずるような足音にハッとし、体をひねって後ろを向く。
「うちの高校の王子様人気、まじエグイよな」
黄色いテニスボールを手の上でポンポン投げながら僕たちに近づいてきたのは、奏多くんだ。
だるそうに口を曲げ、反対の手で握っているラケットの先をテニスコートの外にいる女子たちに向けている。



