この瞳を独占したいと、この6年間思ってきた。
僕だけを見つめて欲しいと願い続けてきた。
その夢が今叶うなんて。
このままずっと抱きしめられていたいと思うのは、僕のワガママだよね。
僕を抱きしめる腕がほどけないのはなぜ?
恥ずかしさの中に甘さが溶けこんでいるような表情で、僕を見つめ続けてくるのはなぜ?
「キャー! カスミ先輩がテラセ先輩を抱きしめてる!」
遠くから黄色い悲鳴が飛んできて、現実に意識が引き戻された。
「やめて、私の推しカプはカスミソウなのに!」
「麗しい霞先輩と可愛い輝星先輩のカプなら、わたし推せちゃう!」
みんなに見られているという現実が羞恥心をいたぶってきて、僕と霞くんは焦りに任せお互い背後にジャンプを決める。
僕たちの間にはリンゴが10個並べられそうな距離が生まれてしまった。
流れ出す気まずい空気。
ビビりな僕は顔を上げられない。
霞くんの靴を見つめれば見つめるほど、霞くんへのハテナが募ってしまう。



