「いつ見た? どこで見た? 練習、大会? テラセ何位だった?」
まくし立てながら、霞くんの肩を揺らす奏多くん。
「別にどこでもいいでしょ」と、霞くんが奏多くんの手を肩から外しても「うまいなら、それなりの結果を残してるってことだよな? 知ってること全部言え。俺に教えろ」と、霞くんに額をぶつけそうなほど奏多くんは前のめりになっていて、目がやけにキラキラ輝いていて。
「早く練習しないと、お昼休みが終わっちゃう。はい、奏多の大好きなテニス練習をはじめるよ」
霞くんが奏多くんの背中に手を当て、テニスコートの中央まで押し戻したところで、ようやく奏多くんがうんうんと頷き始めた。
「まぁそうだな。今日は3人で打ち合いするか」
「奏多、萌黄くんに貸すラケットは?」
「あっ忘れた。置きっぱだ、部室に取りに行かんと。マジめんどい」
ぼやきながらも部室棟に向かって走り出した奏多くん。
小さくなっていく彼の背中を見つめる僕の肩から、たまりにたまっていた緊張感が少しずつずり落ちていく。
はぁぁぁぁ、いったん嵐が去ってくれた。
でもまだ心臓はバクバクとうるさいまま。
テニスコートに霞くんと二人だけになってしまった。
彼の心底を探れていない僕は、視線が交わることすら気まずくて目線が下がってしまう。



