やめて奏多くん、これ以上僕にかまわないで。
なんで霞くんが怒っているかわかるでしょ?
霞くんはね、奏多くんと二人だけになりたいんだよ。
僕が邪魔なの。
彼が抱く怒りの名は嫉妬なの。
僕の腕を掴んでないで、霞くんをハグしてあげて。
オマエだけが大事だって、甘い言葉をささやいてあげて。
背が低くて華奢で、昔テニスで俊敏性を鍛えた自分の特性をいかんなく発揮するのは今しかない。
奏多くんに怒鳴られる覚悟を決め、捕まれている腕を振り払いながらしゃがみ込む。
背中を丸めながら地面を蹴り、奏多くんの前から逃げることに成功した。
「オマエな」と僕を睨む奏多くんをなだめるように、霞くんがおっとりと微笑んだ。
奏多くんだけを真ん前から見つめ、半袖から伸びる奏多くんの腕をさすっている。
「奏多、萌黄くんにすごまないの」
「だってテラセって、見るからにテニスヘタそうだし。俺の剛速球を打ち返すどころか、怖いとか言いながらブルブル固まってそうじゃん。だからまずはメンタルを鍛えねーと」
「見た目で勝手に判断したらダメだよ。萌黄くんはテニスが上手なんだよ。小学校の時だって……」
「へぇ」
「奏多、なに?」
「テラセがテニスしてるとこ、カスミは見たことがあるんだ」
「……えっ」
あわわ、霞くんの繊細な眉が下がってる。
返答に困ってる。



