「奏多、萌黄くんが困ってるでしょ。今日は3人でテニスの練習を……」
「ヤダ、カスミはぜってーこいつを甘やかすから」
「球技大会は部活じゃないんだ。楽しく練習するのが一番だと思うけど」
「あと数日しかないってわかってんの? こいつを鍛えれる日。んなら、ビシバシ行くしかねーよな?」
「自分にも他人にも厳しい奏多一人にコーチを任せたら、萌黄くんのメンタルが壊れちゃう」
「心配するなって、ちゃんと飴も用意する」
「そういうことじゃなくて……」
「テラセは俺がもらってく。カスミは食堂で優雅に紅茶でも飲んでろ」
奏多くんの手のひらが、僕の腕をさらに強く掴んできた。
また連れ去られちゃうんだ。
ヘルプメッセージを瞳に託し、霞くんを見あげる。
でもすぐに後悔が湧いた。
いつも優雅に微笑んでいる霞くんの顔から、一切の笑みが消えていたから。
悔しそうに拳を握り、きつく唇をかみしめる霞くん。
瞳が悲しげに揺れている。
こんなに痛々しい表情を見たのは、あの時以来かも。
僕が火の中に飛び込んだ小6の……



