「なんだよ、テニスでうまくなるための秘策を伝授してやってんのに、話は最後まで聞けっつーの」


 奏多くんの眉間のしわも、吊り上がった眉も、気にしてなんかいられない。

 僕は目にかかるユルふわ髪の隙間から、目玉を上向きにして霞くんを確認する。

 はぁ~良かった、もう怒っていないっぽい。

 いつもの優しい王子様スマイルに戻ってる。


 今ので【霞くんの好きな人は奏多くん】という事実が立証されてしまったのだが、悲しむのはあとにしよう。

 このお昼休みを、僕はなんとか乗り切らなきゃいけないのだから。

 もう流瑠ちゃん、なにとんでもないことをしてくれちゃったわけ!

 今朝の出来事がフラッシュバックしてきて、胃がきしむ。

 登校後の教室でビックリしたんだから。

 心停止寸前、魂が天に召されるかと思ったんだから。

 奏多くんのキャップを深くかぶりなおし、僕は記憶を蒸し返さずにはいられない。


 今朝教室に入ったら、ニマニマ嬉しそうな流瑠ちゃんが黒板に大きな文字を書き連ねていた。

 僕だけじゃない、クラスのみんなも黒板に大注目。

 チョークを置いた流瑠ちゃんは、キラキラ顔で黒板を叩いて。

 「変更になったよ、みんなよろしくね」と、ポニーテール大振りでニコリ。