僕はハッとなった。

 遅れてとんでもないことに気がついた。

 僕は今、霞くんに嫉妬され、恨まれているのではないかと。


 僕の肩を抱いたまま陽気にしゃべている奏多君の声なんて聞いているほど、能天気な脳みそを持ちあわせてはいない。

 霞くんは僕と奏多くんの真ん前に立ち、飛び切りの笑顔で僕たちを見つめてはいるものの……

 この笑顔はヤバい時のだ。

 小6までの霞くんをところどころ思い返し、僕の背中の広範囲から冷や汗が吹き出た。


 目じりが垂れている。

 口角が上がっている。

 一見、王子様スマイルなのだが……

 瞳の奥が笑っていない。

 これは怒っている時の顔だ。

 僕にはわかる。

 小6まで霞くんの隣を独占してきた僕だからわかる。


 そして霞くんが激怒している原因はこれしかない。

 僕に奏多くんをとられたと思い込んでいるんだ。


 好きな人に嫌われたくないという思いは、ものすごい原動力になる。

 僕の肩を抱え、僕の体を揺らし、一人しゃべりまくっている奏多くんの手を払い、僕は逃げだすことに成功した。