奏多くんがオスっぽいフェロモンを無意識に振りまくだけで、テニスコートの周りに群がる女子たちから黄色い悲鳴が沸く。

 異様な光景だけど、僕の高校の生徒は見慣れている。

 いまさら驚くことでもない。


 「キャー、奏多くんカッコいい」

 「今、腹筋見えた。割れてた」
 
 「シックスパッドだったね。直視ムリ、でももっと拝みたい、触りたい、抱きしめられたい!」


 なんて女子たちがはしゃぎだしたのは、奏多君が体操服の裾をまくりあげ、腹チラ見せで顔の汗を拭いたから。


 「カスミの代わりに、俺がお前を鍛えてやるからありがたく思え」


 言葉だけとると乱暴だ。

 許可なく僕の肩を抱いて、許可なく僕の側頭部に額をぶつけてくるところがヤンキーっぽい。

 でも笑顔は幼くて八重歯を光らせながらヤンチャに笑っているから、不思議なほど憎めない。

 僕が冗談できつい言葉をぶつけても、笑い飛ばしてくれそうな安心感すらある。

 不思議な人だなと感心はしているものの、正直離れて欲しい。

 暑い、暑苦しい、そして霞くんから飛んでくる視線がものすごく痛い。