あっ、思い出した。

 僕が霞くんとペアを組んでテニスの試合に出た、小5の時のこと。

 どれだけ練習しても勝てなくて。

 必死に球を追いかけても、上位入賞ですらほど遠く。

 試合に負けて、悔しくて悔しくて、陰で泣いていた僕に霞くんが言ってくれたんだ。

 『いつか俺が、輝星に金メダルをプレゼントしてあげるからね』って。


 僕はたまらなく嬉しくなって『絶対だよ、約束だからね』って、霞くんに抱きつき、わんわん泣いちゃったんだけど……
 
 もしかして霞くんは、ずっと勘違いしてたの?

 僕は霞くんと他の誰かが勝ち取ったメダルが欲しかったわけじゃないよ。

 霞くんと僕で優勝して、おそろいの金メダルを首から下げたかったんだ。


 この金メダルは、これ以上僕が触ってはいけない代物だ。

 キズをつけないよう丁寧に扱い箱に戻さなきゃ。

 ふたを閉める直前、堂々たる輝きを放つ金メダルに重いため息を吹きかけてしまった。


 僕の推しカプ二人がつかみ取った輝かしいメダルではあるけれど、僕が持っていたくない。

 霞くんにふさわしいのは奏多くんだって、このメダルが証明している気がするから。

 醜い嫉妬心とえげつない敗北感。

 どす黒い大波に襲われた僕は、霞くんと奏多くんが存在しない闇空間に、とてつもなく逃げたくなってしまったのでした。