「あげる」

 「この箱を……僕に?」

 「約束だったから」


 なんのことかわからない。

 僕と霞くんが何かを約束したとなると、拒絶される前、小6以前の話になるけれど。

 蓋をあけて中身を確認しようとした僕の手が完全にフリーズした。

 「テニスやるの?」と、霞くんが冷たい視線を突き刺してきたから。


 霞くんは、僕が父さんとテニス練習をしていることを知っているのだろうか。

 テニスは楽しい。

 ストレス発散になる。

 でもこの願望が一番強いんだ。

 【いつか霞くんと、もう一度テニスがしたい】


 「やるよ……テニス……」 

 「てらっ、萌黄《もえぎ》くんはイヤじゃないの?」


 やっぱり名前では呼んでもらえないか。

 灰色の悲しみが涙腺をつついてくる。

 今の質問はテニスはイヤじゃないの?という意味だろうか。

 勘違いされたくない。

 霞くんとボールを打ち合ったあの日々に勝る思い出なんて、この僕にはないよ。


 「好きだよ……今も……」

 「テニスが? それとも俺……」

 「え?」