ドキドキを紛らわせたい僕は、膝に乗せてあったリュックを両手で抱きしめた。

 人肌を感じるわけでもないのに、緊張が少しだけ緩んでいく。

 生まれた心の余裕を糧に、うつむいたまま吐息に言葉を溶かした。


 「お……は……よう……」


 しまった!

 今は誰がどう見ても完全なる夜。

 バスの窓から見える薄い月が、僕の失態をイヒヒと笑っているではないか。


 恥ずかしい。

 なんてことを言っちゃったんだろう。

 小6の頃から脳が成長してないと、失望されたに違いない。
 

 自分にがっかりした僕は、これ以上霞くんと会話を続けるのを諦めた。

 肩を落とし、リュックを強く抱きしめ、早くバス停に着いてと懇願する。

 理由のわからない涙が、製造されそうになった時だった。

 薄くて縦長の小箱が、僕の視界に映りこんだのは。


 「これは?」と、瞳キョトンで霞くんを見上げる。

 箱を持った手を僕の前に伸ばしている霞くんの表情は、なんといえばいいものか。

 笑っているわけでも眉を吊り上げているわけでもない。

 感情が全く読めなくて。


 唇は一文字にぎゅっ。

 斜め上から真剣な目を、座席に座る僕に突き刺してきて。

 瞳が捕まってしまった僕は、ただただ霞くんを見上げることしかできない。