僕の真横に立っているのは、間違いなく霞くんご本人です。

 片手で吊革を握り、僕にやや背を向け、無表情で視線をスマホに突き刺しています。

 どうやらまだ、僕がチラ見していることに気づいていないもよう。

 うわわーっと胸の鼓動が沸き立つ。

 口から空気を取り入れたいのに、ドキドキが肺に送り込まれてしまい呼吸が苦しくてたまらない。

 胸をさすっても平穏は戻らないので、諦めモードで息をひそめ、オロオロと霞くんを見続ける。


 うぅぅぅぅ、麗しい!

 彼のサラサラのブラウン髪が、バスの揺れに合わせてふわりと踊った。

 白い肌に映える上品で優しい瞳。通った鼻筋。薄くて形のいい唇。

 どの顔面パーツも見とれてしまうほど完璧で、黄金比率で小顔にはめ込まれていて、白いタキシードをまとわせたら童話の中の王子様にしか見えないほどの造形美。


 お城から僕に会いに来てくれたの?

 座席も車体も古びたこのバスよりも、白馬にまたがる方が霞くんにはお似合いだよ。


 どうしよう、緊張してきた、息が止まりそう。

 大好きな人をこんな至近距離で瞳に映しているなんて、不幸が訪れる予兆だったりして。

 このバスが崖から落ちたりでもしたら……

 その時は、霞くんを助けなきゃ。

 僕の命に代えても、絶対に!