幸せだったころが詰まった思い出箱に片足を突っ込んだところで、手に持っていたスマホが震えだした。
今度は奏多からのメッセージじゃない。
うちのクラスの体育大会委員をしている堀北くん。
焦る気持ちのまま画面を開く。
びっくりするほどの長文羅列で面を食らったのち、心臓をいったん落ち着かせとようと窓の外の夜空を見上げた。
闇夜に白く輝く月が俺を見つめている。
さっきまで隠れていたくせに。
アタフタする俺を楽しみたいんだろうなと思ったら、折れそうなほど細い月がにやけた人間の口に見えてきた。
今は癒しが欲しいのに意地悪だな、今夜の月は。
心の安定を諦め、俺は再び文字羅列に視線を戻す。
『小倉くんは当分のあいだ学校を休むらしい。球技大会は出られないって』
トーナメント表の黒い塗りつぶしは、そういうことか。
『担任からその話を聞かされてた時、教室に鈴木さんがいて』
鈴木流瑠さんね、輝星の親友兼たぶん彼女の。



