そのことはちゃんとわかってはいるはずなのに。
ふつふつと怒りが湧き、血が頭にのぼっていく。
二人のキスシーンを頭から追い出したいと髪をかきむしっても、よけいに色濃く脳に刻まれるだけ。
心を救う方法なんて、一つも見当たらなくて。
俺だけの輝星だったのに……
中学に入る前までは……
間違いなく……
荒れる心拍を落ちつけたくて、バスの背もたれに左腕と左頬を押し当てた。
あごの角度を上げ、涙の雫のようにはかなげに浮かぶ細い月をぼんやりと見つめる。
部活中、調理室でアクションを起こしたのは、輝星ではなく流瑠さんの方だった。
ポニーテールを大振りさせながら、流瑠さんは勢いよく上半身を傾け輝星にキス。
遠かったし角度的にも唇同士が触れ合うところまでは見えなかった。
でもキスをしたのは間違いない。
だって二人の体が離れた直後、おでこに手を当てた輝星が嬉しそうに微笑んでいたんだから。



