☆霞side☆
タイヤのついた小さな箱に、俺を毛嫌いしている幼なじみと二人きり。
あっ、運転手さんも入れたら三人か。
先にバスに乗り込んだ輝星は、俺から逃げるように前方の一人席に腰を下ろした。
俺が一番後ろの席に座ったのは、バスの重量バランスを考えてというわけではない。
今は特に輝星の顔を見たくない。
きっとニマニマ微笑んでいるに違いないんだ。
調理室で親友の流瑠さんとキスをしてから、そんなに時間がたっていないんだから。
進みだしたバスが、俺の記憶脳を揺らしたせいだろう。
二度と思い返したくないほどの衝撃映像が、脳内で再生されてしまった。
わかっている。
輝星の特別はもう俺じゃない。
同じクラスの鈴木流瑠さん。
中学に上がる前、輝星を拒絶したのはこの俺だ。
今も他人のふりを続け、目を合わせないようにしている。
全部自分の蒔いた種。
自業自得。
輝星は何も悪くない。
出会った時からずっと俺だけが悪い。



