「おーい輝星、絶対に決勝まで勝ち上がって来いよ。そうしないと俺たち勝負できないんだからな」


 オスっぽい笑い声のあと、ゴツゴツした手の平で髪をワシャワシャされて「やめてよ」とつぶやいてみたものの、「なんかお前って、存在してるだけで無性に構いたくなるんだよな」だって。


 「存在がマスコットっていうか、ヒヨコっつーか」


 意味が分からない。

 固まる僕なんか気にも止めず、変わらず奏多くんは僕の首を背後から抱え込んだまま。


 「奏多、輝星は俺のものなんだけど」


 不機嫌な声に視線を上げると、目の前には綺麗な顔で奏多くんを睨む霞くんが立っていた。


「嫉妬魔に呪い殺されたらたまったもんじゃねーから、ペットにしようと思ってたこのヒヨコ、カスミに返してやるよ」


 奏多くんは腕をほどくと僕たちに背中を向け、「決勝で会おうな」とキザっぽく残し去っていった。



 「大丈夫だった? 奏多になにもされてない?」


 さりげなく抱かれた肩。

 お互いの熱を押しつけ奪い合う腕のぬくもり。

 これが恋人の距離か。

 ゼロ距離か。

 恥ずかしさと幸福感がこみあげてきて、かぁぁぁと体中の血液が沸騰しそうになる。


 ここは学校。

 誰に見られるかわからない。

 別に霞くんとのイチャイチャを見られて困るわけじゃないけれど、霞くんに触れられただけで真っ赤になっちゃう顔を見られるのは恥ずかしいなって。