人と話すのは面倒だ。
体を動かすのも面倒。
他人がどうなろうが興味ない。
この現実世界についても興味ない。
僕はただビッチリと並んだ文字を読んで、本独自の世界を堪能するだけで満足だ。
本の世界では誰も僕に興味を持たないし、話しかけてはこない。
僕という存在とは関係ないところで勝手に物語が進んでくれる。
上から眺めているだけの世界は、実に楽で自由だ。
姉のエリーゼが行方不明になったことも、正直にいうとどうでもいい。
元々そんなに関わっていなかったし、無事でいたらいいねとどこか他人事のように思っているだけだ。
だから、その姉の身代わりに来たという女のこともどうでもいいと思っていた。
はずなのに……。
「……新しい話、書いたの?」
中庭にいた僕のところにやってきた身代わりの女。
いつもなら無視するところだけど、その手に持っているものを見たら自然と声をかけていた。
この前読んだ不思議な世界観の物語。
またあんな話が読めるかと思うと、どこかソワソワしてくる。
野菜を馬車に変えたり、ネズミを馬に変えたり、変なことばかり書いてある話だった……今回の話はどうだ?
身代わり女が差し出してきた紙を受け取り、表紙らしきページを見る。
タイトルを見るよりも先に、真ん中に堂々と描かれた絵が目に飛び込んできた。
……何これ。
ふざけてるとしか思えない、ひどい絵。
パラパラと数枚確認してみたが、ご丁寧に全ページ描き込まれているようだ。
5歳の子どもだってもっとまともな絵を描くけど……。



