私が『アイツ』呼ばわりするメイド──セリーヌは、紺色の髪の若いメイドだ。
このメイドが掃除中に誤って高価な花瓶を割ってしまったことが、このイベントの発端である。
なんとこのメイド、自分の責任にされるのを恐れて「フェリシー様が割った」と私に濡れ衣を着せたのだ。
実際にその場にいたメイドたちも、みんなセリーヌを庇って私のせいにするんだよね!
あのイベントはほんっとに胸糞すぎて、思い出すだけでもイライラしてきちゃ……
「フェリシー様?」
「あっ、は、はいっ!」
拳を握って歯をギリギリしている姿を、マゼランに見られてしまった。
どうやら考え事をしているうちにダイニングに到着していたらしい。
「着きましたよ」
「そ、そうね。案内ありがとう」
この家に来て1ヵ月経つけど、3兄弟と一緒に食事をしたことなんてない。
いつも自室で食事をしている私は、ダイニングに来るのは初めてだ。
いけない!
攻撃的な顔をしているところを見られるのはまずいわ!
冷静に! 落ち着いていくわよ!
ガチャ……
マゼランがドアを開けてくれたので、背筋を伸ばしてからゆっくりと中に入った。
エリオットがいるからか、マゼランも普段とは違い丁寧な対応をしてくれている。
エリオットに会うのは、この家に来た日以来だから約1ヵ月ぶりね……。



