白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

 エルさんがサイクロプスの放つ光線の軌道の途中に分厚い氷の壁(アイスウォール)を展開して威力を弱める。
 さらにほかの魔術師たちもアタッカーの周りに同様に氷の壁を張っていく。
 その隙にくまーが炎のマントをアタッカーたちに配布した。

「ボスの暴走化のきっかけは?」
 背後から旦那様ののんびりとした声が聞こえた。

「残りHPが少ない場合と、時間超過の場合があります」
「その見極めは?」

 もうっ、のんびり説明している暇なんてないのよう! と思いつつ、そう言えば以前ロイさんと同じやり取りをしたことを思い出した。

『たまたまキリのいい時間だと判断に迷うけど、ボスにだって感情はある。暴走化直前のボスの様子を見ていればわかるだろ。こっちの攻撃がちっとも効いてなくて平然としていたら撤退の合図だし、焦りまくってる様子なら迷わずラッシュをかけていい』

 そうだった。
 だから今は迷わずに――。

「あと少しです! 総攻撃! アタッカーはボスがダウンしたら角を狙う準備を!」
 大きな声で告げてわたしも背中の大剣を鞘から抜く。

「よくできました」
 笑いを含んだ声がまた背後から聞こえて、頭をポンポンと撫でられた。
 
「返してもらうよ」

 何のこと……?
 振り返ると、握っていたはずの大剣が自らの意志で動いたかのようにわたしの手を放れ、旦那様が伸ばした手に飛び込んだ。

 大剣からギイィィィンという共鳴音が響き、旦那様の姿が黒い髪とクリムゾンレッドの瞳に変わる。
 そしてゆっくりとした足取りで中央にいるサイクロプスへと向かっていく。

「ロイさん……?」
 こちらをチラっと振り返ってニッと笑ったロイさんが駆け出した。
 
 愛剣を手にサイクロプスに向かっていくロイさんに周囲の人たちもすぐに気づき始めた。
「ロイだ!」
「ロイさんが帰ってきた!」

「手ぇ抜くんじゃねえぞ、ラッシュだ! 一気に叩き潰すぞ!」
「おうっ!」
 ロイさんの(げき)でアタッカーたちのボルテージが一気に上昇する。

「ハットリ! 光線が終わったタイミングで目に飛び込んで!」
 こちらを一瞥したハットリが親指を立ててボスの正面へと回りこみ、光線を避けて体を回転させ始めた。
 高速回転で黒い塊のようにしか見えなくなったところで大きな手裏剣になって宙を舞う。
 そしてサイクロプスが次の光線を放つ前に、姿を戻したハットリがイリジム鉱石で作ったばかりの特製クナイをその眼球めがけて突き立てた。

 サイクロプスがゆっくりと落ちるように崩れて膝を着き、ズンッという大きな音と共に地面が揺れる。

「ダウンよ! 角を折って!」
 すぐに立ち上がれないようサイクロプスの膝に泥の沼を発生させながら叫んだ。

 一斉にサイクロプスの正面に群がったアタッカーたちの中に当然のようにロイさんもいて、最終的に角を折ったのはロイさんの大剣の一撃だったように見えた。

「やったー!」
 サイクロプスの討伐完了を見届けて両拳を握った。

 ロイさんの周りには人だかりができ、おかえりなさいとみんなに言われている。
 旦那様がロイさんに変身するのを見たのはわたしだけだったんだろうか。
 
 各部隊で勝鬨が上がり互いを称え合って喜んでいるが、これで終わりではない。
 ロイさんの件についても全てが終わってからだ。

 サイクロプスの巨体が霧散して消えていき、その場に大量のドロップ品が積みあがっている。

「お疲れさまでした。戦利品は一旦ペットがまとめて回収します。後で公平に分配しますのでご心配なく。ラスボスに備えるフォーメーションを!」
 わたしの声を合図にくまーが勢いよく戦利品を吸い込んでいく。

 ラスボスはおそらく中央に現れるだろうと踏んでいるため、各部隊は中央を空けて左右に分かれる陣形を作った。

 
 しかし一向にラスボスが現れる気配がなく、もしかして地下50階(ここ)が最下層ではなかったのか? と誰しもが思い始めた時だった。

 ロイさんがおもむろに中央に向かって歩き始めたのだ。