白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

「悲惨なことになっているな」

 背後から低い声が聞こえて振り返ると、旦那様がアイスブルーの瞳を冷ややかに光らせて苦笑いしていた。

 わたしがリーダーを務めた最初のラスボス戦から五年経ち、マーシェスダンジョンは地下60階の巨大なダンジョンへと成長している。
 そして今日は、その地下60階のラスボス戦を見届けるためにダンジョンへと赴いていたはずだが、帰って来たということは無事に討伐が終了したんだろうか。

 そのことを尋ねる前に、明るい声が響いた。

「とうさま! メテオだよ♡」
 先程と同じ天使の笑顔で父親に手を振るクリストファーがいる。

 旦那様は手袋を外しながらゆっくりと前へ進み出て両手を空にかざした。

 空が一瞬凍りついたように見えた後、火球が消え去っていつもの青空が広がった。

 
 これは後からエルさんに聞いて知ったことだが、旦那様は宮廷魔術師になれと言われるのが嫌で、学生時代に魔法科の試験でいつもかなり手を抜いていたらしい。
 
 稀代の魔術師と謳われるエルさんはオールマイティーに全ての魔法を失敗することなく無詠唱で発動できるが、攻撃的な魔法に限定すると旦那様には全く敵わなかったんだとか。

「高火力の殲滅魔法を使うあいつはね、悪魔のようだったよ。しかもそれが本気じゃないっていうんだから、本気になったら小さな国をひとつ滅ぼすぐらい楽勝だと思うよ」

 そう語るエルさんのことを、大げさなこと言っちゃって! と思っていたが、今ならよくわかる。
 この親子にかかれば国どころか、世界を滅ぼすことだって可能かもしれない。

「とうさま、すごい! いまのどうやったの?」

 足元にまとわりつくクリストファーを抱き上げた旦那様は、優しい笑顔で愛息の額にキスしながらこちらへ戻って来た。

「それを教える前に、まず庭にたくさん空いた穴を埋めないといけないな。土魔法が得意な母さまに教えてもらって一緒に直そうか」
「うん!」

 瓜二つの笑顔がわたしを捉え
「ヴィー」
「かあさま」
と呼ぶ。

 しょうがないわねとわたしも釣られて笑った時、お腹の小さな命がポコっと動いた。