白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

「奥様ああぁぁぁぁっ!」

 裏庭から庭師のマックの悲痛な叫び声が聞こえた。

 バラの手入れをしていた手を止めて、よいしょと立ち上がる。
 どうせまたクリストファーがやらかしたのだろうと思いながら裏庭に回ると、予想を遥かに上回る光景に唖然とした。

 火球が空から降り注ぎ、裏庭が穴ぼこだらけになっているではないか!

「奥様、申し訳ございませんっ」
 マックが涙声で平身低頭謝罪しているが、マックのせいでないことはよくわかっている。

 クリストファーは三歳になる息子だ。
 艶やかな栗毛もアイスブルーの瞳も父親譲りで天使のような見た目であるのはいいとして、とんでもない魔力を秘めていて手に負えない。
 
「かあさま! 隕石弾(メテオ)だよ♡」
 そう言って嬉しそうに手を振るクリストファーの後ろではいまだに火球がドカドカ落ち続けている。

 メテオだよ♡ じゃないでしょうがっ!

 わたし譲りの土・岩石系魔法と旦那様譲りの攻撃系高火力魔法の融合。
 天使の皮をかぶった悪魔という表現はこの子のためにあるのかもしれない。

「奥様、お坊ちゃまは私の手に負えるレベルではございませんっ!」
 青ざめた顔で首を垂れるのは、今日雇ったばかりのクリストファーの家庭教師だ。

 まずはクリストファーの力量を確認するためにどんな魔法が使えるのか披露してみてと言ったら、こうなったらしい。

「どうにか魔法を制御する方法をあの子に教えていただけないでしょうか」
 魔術師としても家庭教師としても経験豊富だという人物を紹介してもらって今度こそと思ったのだけれど……。

「無理です! 申し訳ございませんが今日限りで辞めさせていただきます!」
 そう言うや否や、家庭教師は転移魔法で止める間もなく逃げて行った。

 ああ、これで何人目だろう。
 クリストファーとまともに渡り合える魔術師なんて、エルさんか旦那様ぐらいしかいないんじゃないかしら。

 ここが王都の本宅の庭園でなかっただけマシだと思うことにしよう。
 遠い目で見上げる空から、いまだに火球が降り注いでいた。