白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

 どうして消えないんだろうと思いながらエルさんと顔を見合わせていると、旦那様がわたしの手のひらを下から押した。
「ヴィー、早くそれ食べろ」

「もがっ」
 妙な声を上げるわたしの舌に花が触れたと同時に消えてしまった。
 それでもとりあえず、こくんと飲み込んでみる。

 何か体に変化はないかと聞いて来る旦那様に、妻を実験台に使わないでください! と言いたくなったが、それを口に出す前にわたしの体に早速大樹の花の効果が現れた。

 旦那様のせいで朝からずっと怠かった体がスッと軽くなって、すっかり回復してしまったようだ。
 元気よく立ち上がると、また落ちてきた花びらを引っ掴み、お返しとばかりに旦那様の口に押し付けた。

 万が一、まさかの不老不死になった場合、わたしひとりで生きながらえるだなんて御免だ。
 旦那様も道連れよっ!

 喉仏を上下させてしばし沈黙した後に、旦那様は「なるほど」と言ってにやりと笑った。
「さすがに不老不死は眉唾物だろうと思うが、これは相当な回復力があるな」

 昨晩の疲れが吹っ飛んだと耳元で囁かれて、何言ってんだこの人は! と頬が熱くなってしまう。

 それよりも、一体なぜわたしの手のひらでは花びらが長持ちするんだろうか。
 じっと自分の両手を見つめても皆目見当がつかない。

「土魔法をマスターした手との相性がいいとしか思えないな」
 旦那様もわたしの手を不思議そうに見つめている。

 エルさんはそんなわたしたちのことなどお構いなしに、どうにか自分も花を食べようと奮闘し始めた。
 上を向いて大きく口を開け直接食べようとしている姿はとても王子様とは思えない。
 さらには、浮遊魔法で飛んで咲いている花にかぶりつてもいいかと聞いて、旦那様に怒られていた。
 
 エルさんはひとしきり大暴れした後とうとう諦めたらしく、わたしに泣きついて来た。
「ヴィー、僕にも食べさせて!」

 しょうがない人ねえと思いながら落ちてきた花びらを手のひらですくうと、差し出す前にエルさんの顔が突っ込んできて花を食べた。

 だからそれ、王子様とは思えないんですが!

 呆れるわたしをよそにエルさんは満足げに腹部をさすりはじめる。
「ありがとうヴィー、さすが師匠思いの弟子だね。お腹に穴が開いてから、なんだかしっくりきてなかったんだけど、これで大丈夫そうだ」

 もしかすると、同じ方法でお義父様にも花びらを食べてもらえば……?
 そう気づいて旦那様を見ると、同じことを考えていたようだ。

「いや、しかしもうあの人は転移魔法で移動する体力もない状態だから、ここまで連れてくることができない」
 残念そうに視線を落とす旦那様に力強く言う。
「大丈夫です! お義父様の寝室には観葉植物の鉢がありましたよね。わたしが運びます!」