白い結婚を言い渡されたお飾り妻ですが、ダンジョン攻略に励んでいます

 実は討伐隊のリーダーには最後の仕事が残っている。
 ダンジョンは、最下層のラスボスを倒したらそれで終わりで成長を止めるわけではない。
 リーダーはダンジョンプログラムの変更をふたつ申し出ることができるのだ。
 お客様のご要望を反映すると言えばわかりやすいだろうか。

 そしてアップデートされ、階層が足されてダンジョンはこれからも成長を続けていく。

 以前ジークさんがこの討伐隊のリーダーをしたがっていたのは、名声や報酬のためではなく、自分の思い通りの仕様変更をしたかったのだろうと思う。

「ヴィー、あらかじめ言っておくけど一度要望を言ったら変更はできないから、よく考えてから言うんだ。ラスボスの件をどうにかしないといけないってわかるね?」

 旦那様の言いたいことはよくわかる。
 アップデートされて5階層増えたところで、またラスボスがロイさんだったりしたらグダグダなことになってしまう。
 内容をよく考えてこくこく頷いた。

「もうひとつは、ヴィーがここを変えて欲しいって日頃から思っていることを何でも言えばいい。ここまで頑張ったご褒美だ」

 甘く微笑んだ旦那様が手をかざすと、突然そこに分厚い本が現れた。
 表紙に『ダンジョンマニュアル』と書いてある。

「さあ、それではひとつ目のご要望は?」

「マーシェスダンジョンのラスボスは人間以外の魔物にしてください!」
 旦那様は満足げに頷きながら何も書かれていないページを開いた。
 そこに、今わたしが言った内容が自然と印字されて浮かび上がる。

「二つ目のご要望は?」

 ひと呼吸置いてから、大きな声で告げる。
「マーシェスダンジョンでは、おさげを戦利品に加えてください!」

「はあぁぁ? 何だそりゃ!?」
 あらあら、旦那様ったらロイさんになってらっしゃるわ。

 大事なおさげが戦利品に含まれていないせいでミミックから取り返せなかったんですからね!
 どう考えたっておかしいわよ。

 呆然と口を半開きにしている顔までかっこいいんだから……と旦那様を見ているうちに、ひとつ目の要望の下におさげに関することが印字され、本がパタンと閉じたのだった。