◯歩道(朝)
軽く俯きながら歩く田代勇希(13)。
学ランを身に纏っている。
リュックを背負っている。
舞い落ちてくる桜の花びら。
勇希は空を見上げる。
勇希N「例年よりも早めに咲き揃った桜の花も大部
分が散り、今は葉桜の状態になっている」
足元に目を遣る。
少し濡れたアスファルトの上。
踏み潰された無数の桜の花びら。
勇希「(小声)踏まれて可哀想だな。でも」
再び見上げる。
桜の木に言うように、
勇希「今年も咲いてくれてありがとう」
軽く微笑む。
◯中学校・外観(朝)
◯同・廊下
吊り下げられているプレート。
2年1組の表記。
◯同・2年1組(朝)
誰もいない教室。
黒板に書かれている担任からのメッセージ。
綺麗に並べられた机。
空のロッカー。
何も貼られていない掲示板。
勇希N「新学期を迎える準備が整えられた空間は異彩
を放つ。静寂の中、教室の空気を吸うが、思わずむ
せてしまう。掃除されているはずの教室の隅に残さ
れた埃は寂しさを感じさせる」
黒板に貼られた座席表。
自分の席を確認する勇希。
見覚えのない苗字。
勇希「こんな人、いなかった、よな……?」
不思議がる勇希。
そのまま自分の席に座る。
リュックから1冊の小説を取り出す。
小説の表紙。
無数の小さな傷や折れ目が付いている。
勇希N「小学4年生のときに親からもらったお年玉で
購入した本。ジャンルはミステリー。今でも不思議
に思うのが、それまでミステリー、かたや小説なん
てものは、自分から選んで読んだことなどなかった
のに、その本は僕の心を奪ったということ」
1ページ目を捲る。
栞を右手に持つ。
勇希N「初めて読んだとき、よく分からないストーリ
ー展開に頭を悩ませた。ちゃんと理解したい。そう
思うようになった僕は、朝の読書の時間には、毎回
この本を読むようになっていた。それから早3年。
今でもその習慣が続いていて、他の小説に目移りす
ることは一切なかった。僕のお気に入りの一冊だ」
読み進めていく勇希。
ページを捲る音だけが聞こえている。
勇希N「ページの所々に付いた折皺やシミは、いつ付
いたかなんて、僕にも分からない。それでも、読書
の世界に入り込めば気にならないでいる。少し開い
た窓から入る春風は心地よいリズムで流れ込む。花
壇に植えられた花の匂いを感じながら、そのページ
を捲り続ける」
◯同・職員室(朝)
久保が座るデスクの近く。
そこに立つ三好陽馬(13)。
小刻みに首を振り続けている。
久保「説明は以上だ。何か分からんことはあるか?」
三好「いえ。大丈夫です」
久保「そうか。まあ、追々でいいから慣れろよ」
三好「はい」
◯同・廊下(朝)
数人の生徒が立ち話をしている。
ガヤガヤと騒がしい。
予鈴が鳴る。
◯同・2年1組教室(朝)
小説を閉じる勇希。
女子たちの妙に甲高い声色。
勇希、溜め息を吐く。
勇希N「朝礼開始の時刻が迫る教室にいる生徒たち
は、楽しそうに会話をしている。その会話を騒がし
いと思いつつも、微笑ましく聞いていると、誰かが
背後から僕の肩を叩いた」
成瀬「おはよっ、勇希!」
勇希「お、おはよう」
勇希N「こいつ、こんなテンションだったっけ?」
成瀬は勇希の前に立つ。
机に両手を置き、勇希の顔を覗き込む。
成瀬「なっ、知ってるか? うちのクラスに転校生来
るらしいぜ」
眼鏡の奥の目を光らせる成瀬。
気分を高揚させている。
勇希N「勝手に女子が来ると決めつけているのか、
やはり浮かれているように見える。見覚えも、耳に
したこともない苗字は転校生の名前なのか」
勇希「いやぁ知らないけど。それ、どこ情報なの?」
成瀬「はぁあ? いやいや、玄関にはクラス分け、黒
板には座席表貼ってただろ? まさか、見てないと
か言わねぇよな」
勇希「(惚けて)自分の名前しか見てなかったわ。悪
いぃ」
軽いノリで手を合わせ、頭を下げる勇希。
成瀬は呆れつつ、明るい笑みを浮かべる。
成瀬「まあ、勇希らしいな」
勇希「ハハハ」
成瀬は他の輪の中に入っていく。
勇希N「教室は24人の生徒で溢れる。人数の割には狭
く感じる教室。全体的に成長しているからだろう
か」
女子のグループ。
大きな声を発し会話する副島千夏(13)。
その様子を遠目から見る勇希。
どこか羨ましそうにしている。
勇希N「僕が千夏と知り合ったのは、保育園に通って
いたころだった。家が近所にあり、千夏だけでな
く、千夏の姉も含めてよく一緒に遊んでいた。天真
爛漫な性格は今でも変わらず、中学生になってから
は男子ウケも女子ウケも良く、学校中で千夏を知ら
ない人はいないほどの有名人だ」
千夏は女子と笑い合っている。
勇希は両腕の中に頭を埋める。
勇希N「周りからは、勇希と千夏で付き合えばいいの
に、とかと言われるが、千夏とは友達以上、恋人未
満の関係性でいたいと思っている。千夏の気持ちを
聞いたことはないけど」
千夏に視線を送る勇希。
振り返る形で勇希を見る千夏。
千夏「今年も一緒でよかった! よろしくね!」
千夏は勇希に手を振る。満面の笑み。
にこやかに笑い、手を振り返す勇希。
勇希「おう、よろしくな!」
千夏は不格好なウインクを返す。
軽く笑う勇希。
勇希「(小声)あ、かわいい」
勇希N「千夏はいつまで経ってもウインクができな
い。それも愛おしい」
本鈴が鳴り響く。
教室前方のドアが開く。
静まり返る教室。
クラスメイト全員の視線が向く。
生徒名簿を手に入ってくる久保。
クラスメイトA「(小声)うわ、最悪」
クラスメイトB「(小声)でも、面白いからいいじゃ
ん」
クラスメイトA「(小声)えー、私は無理。嫌い」
そう言って項垂れるクラスメイトA。
クラスメイトBは半笑い。
勇希N「中に入ってきたのは、8割厳しく、2割面白い
と有名な久保先生。派手なネクタイが印象的な先生
だ」
教団の前に立つ久保。
久保「チャイム鳴っただろ」
慌てて座るクラスメイトたち。
勇希の右隣りは空席のまま。
久保「今から新しい仲間を紹介します。中入って」
久保は視線を前方ドアに向ける。
クラスメイトも視線を送る。
俯きながら入ってくる三好。
緊張した足取り。
リュックを抱えた状態で教卓の横に立つ。
勇希「……!」
勇希N「どこか根暗そうに見えるが、俯き加減の顔か
らも分かる、中学二年生とは思えない美貌の持ち
主。女子人気は間違いない顔だろう。その生徒から
は、眩しいぐらいにキラキラとしたオーラが放たれ
る」
勇希「(小声)眩しっ……」
久保「自己紹介して」
三好は顔を上げる。
女子数名が息を呑む。
三好「三好陽馬です。お願いします」
綺麗に頭を下げる三好。
勇希「……!」
勇希N「自己紹介した彼の声は高く、クールな顔と声
のギャップは激しく、僕は一瞬にして心を射抜かれ
てしまった」
三好は頭を上げる。
久保「みんな、三好君と仲良くするように」
クラスメイトたち「はい」
久保は勇希の右隣の席を指す。
久保「あそこの席に座って」
三好「はい」
小さな歩幅で歩いてくる三好。
クラスメイトA「イケメン」
クラスメイトC「カッコいい」
女子の心の声が漏れる空間。
三好を見る目が輝いている。
椅子に腰かける三好。
久保は開いていた名簿を閉じる。
そして脇に抱える。
久保「各自、始業式が行われる体育館に移動。出席番
号順に並ぶように」
クラスメイトたち「はい!」
久保が教室を出て行く。
席を立つクラスメイトたち。
ゆっくりと腰を上げる勇希。
同じタイミングで三好も立ち上がる。
○同・廊下(朝)
ぞろぞろと列を成して廊下を歩く。
勇希は最後尾にいる。
勇希N「皆が仲いい人たち同士で列を成し、体育館へ
と移動していくが、やはり転校生に興味があるの
か、イケメン好きな女子生徒を中心に、彼の周りに
群がったまま進んでいく。男たちが羨ましがるほど
に」
勇希の前を歩く千夏。
輪の中心付近で仲間を盛り上げている。
勇希「やっぱ千夏も興味あるよな。イケメンだし」
無心に歩き続ける勇希。
その背後から肩に手を置く千夏。
勇希が振り向く。
千夏はニヤニヤと笑いながら勇希のことを見ている。
千夏「誰があの転校生君に興味があるの?」
勇希「……!」
勇希は目を真ん丸とさせる。
勇希「え、まさか」
千夏「聞こえてないとでも思ったの?」
勇希「え、聞こえる声で言ってた?」
千夏「うん。でも、他の人たちには聞こえてないと思
うよ」
勇希「ならいいけど」
苦笑いを浮かべる勇希。
千夏は変わらずニヤニヤとしたまま。
千夏「それより勇ちゃん、何か考えごとでもして
た?」
勇希「なんで」
千夏「私の後ろを歩いてくる勇ちゃんを一回呼んだん
だけどね、反応がなかったから、そのまま勇ちゃん
の後ろに回って、肩叩いたの」
勇希「叩かなくても、千夏の声で呼ばれたら絶対反応
するって」
千夏「嘘。さっき反応しなかったじゃん。だから何
か考えてることでもあるのかな~って」
勇希「いや、何も考えてねぇよ」
千夏「私には、そうは見えなかったけどなぁ」
小首を傾げる千夏。
勇希は右指で顎を触り続ける。
勇希N「考えていることがあるとすれば、転校生、三
好陽馬の存在だ」
勇希の隣を歩き始める千夏。
そのまま勇希の顔を覗き込む。
千夏「勇ちゃん、転校生君のことどう見る?」
勇希「どう見るって言われてもな、分かんねぇ」
千夏「私はね、あの転校生君は、努力すれば勉強も運
動もできるし、一時期はモテモテなんだろうけど、
なぜか人気者にはなれないタイプかなって思う。何
となくパッとしないと言うか。んー、何考えてるか
分からないから、その辺、色々気になる人物だな」
勇希「そう見てんだ。ま、千夏がよければ、それで良
いんじゃね?」
千夏「えっ、なんか他人事すぎて嫌なんですけど」
勇希「そんなことないだろ」
素っ気ない態度を取る勇希。
勇希の前を歩く千夏。
振り返りながら勇希に問い続ける。
千夏「ねえどう思う? どう思う? ねえ勇ちゃん」
勇希「(軽い怒り)だから、千夏みたいに分からねぇ
んだよ。ほら、早くしねぇと久保先生に怒られるぞ」
勇希は千夏の背中を軽く押し出す。
反動で体が前のめりになるも、姿勢を戻す千
夏。
勇希の方を見ながら前へ走っていく。
千夏「(意地を張る)そんな態度取ってたら女子に嫌われるよ!」
勇希「(意地を張る)こんな態度取ってんのは千夏だ
けだって。ほかの女子にはしねぇよ!」
前方で群がり続けるクラスメイトたち。
千夏はその輪の中に消えていく。
勇希N「開いた窓から舞い落ちてきた淡いピンク色の
花弁。僕の掌に落ちる。そして誰かが呟いた。Ne
m’oubliez pas|《ヌ・ムビリエ・パ》」と」
○同・2年1組教室(夕)
着席しているクラスメイトたち。
生徒たちの机の上。大量の手紙が置いてある。
教壇の前に立つ久保。
手には紙の束を持っている。
久保「最後に、保護者の方の同意が必要な手紙を回
す。来週までに返事を貰ってくるように」
クラスメイトたち「はい」
久保は前列の生徒たちに紙を配っていく。
前から順に渡されてくる紙。
三好、受け取ってから机に伏せる。
それを横目で見る勇希。
久保「明日から本格的に授業が始まるからな。元気に
登校するように。以上」
クラスメイトD「起立」
立ち上がるクラスメイトたち。
クラスメイトD「礼」
クラスメイトたちはバラバラに頭を下げる。
久保「気を付けて帰れよ」
生徒名簿を手に教室を出て行く久保。
単独行動を始めるクラスメイトたち。
会話する声が教室内に響く。
三好は再び机に伏せる。
手紙には皺が寄っている。
勇希「みんな、渡された教科書を机の上に出したまま
教室を出て行ったり、リュックやらスクールバッグ
やらを背負い、教科書を全てロッカーに放り込んだ
あとに教室を出て行ったりと、全体としてまとまり
がない状態にしていく」
立ち上がる勇希。
教室後方に設置されているロッカー。
落書きがされている。
勇希は出席番号が貼られたロッカーに教科書
を入れていく。
ロッカーの壁に彫られた愛羅武勇の文字。
勇希「(呟き)愛羅武勇って……なんでここなんだ
よ」
最後の1冊を入れ終えた勇希。
立ち上がろうと腰を上げる。
その瞬間、千夏が勇希の右腕を掴む。
勇希は振り向き、千夏の顔を見る。
勇希「何してんだよ」
千夏「(小声)静かにしてよ」
勇希「(小声)何? どうしたの?」
千夏「(小声)なんで転校生君に話しかけないの?」
勇希「(小声)なんでって言われても、困るって」
軽く溜め息を吐く千夏。
勇希の腕は千夏に握られたまま。
静かに腰を上げる三好。
そのまま後方にある掲示板のほうへ歩く。
千夏と勇希は気付いていない。
千夏「(小声)困らないでよ。例えば、出身はどこで
すかー? とか、そんな感じで話しかければいいん
だから」
千夏は掴む手を離す。
隙を見て立ち上がる勇希。
三好がいることに気付く。
勇希「あ……」
千夏「ラッキー」
勇希の肩に両手を乗せ、叩く千夏。
勇希「痛っ」
千夏「んっ!」
勇希「え、い、今から話しかけろってか?」
千夏「今しかないでしょ。みんな帰ってくし。ほら、
行った行った」
勇希の背中を力強く押す千夏。
反動で三好に当たりそうになる勇希。
三好「……!」
勇希「あっ、ごめん!」
咄嗟に頭を下げる勇希。
少し微笑む三好。
三好「彼女と仲いいんだな」。
戸惑う勇希。
さらに微笑む三好。
三好「田代勇希君、だろ?」
小首を傾げる三好。
勇希の胸が高鳴る音。
平然を装う。
勇希「あぁ、あいつとはただの幼馴染なんだ」
三好「へぇ、そうなんだ」
千夏は女子2人と話している。
窓から空を眺めながら。
勇希「それより、もうフルネームで覚えてるんだね。
なんで?」
三好「なんで、って、まぁ、君だけ特別な存在に見え
たから、かな」
はにかむ三好。
勇希「そ、そうなんだ」
三好「うん」
勇希M「胸の奥にチクチクとした何かが刺さった。で
も、同時にトキメキもあった。なにこの感情?」
勇希の顔を真正面から見つめる三好。
勇希の頬が軽く赤らんでいる。
三好「ねえ、よかったら俺と一緒に帰ってくんね?」
勇希M「一緒に帰る……、僕と?」
三好「無理か……?」
勇希「あ、ううん。いいよ。一緒に帰ろ」
三好「やった!」
喜びを露にする三好。
勇希は千夏に視線を向ける。
勇希「千夏、今日部活ないだろ? だったら――」
千夏「(わざとらしく)忘れてたッ、私、部活の関係
で職員室に行くんだった~! ごめん~! また明
日ねっ!」
足早にリュックを背負い、教室を出て行く千
夏。
クラスメイト女子2人も後を追うように出て行
く。
焦り顔の勇希。
三好は笑みを浮かべている。
三好「彼女、おもしろいね」
千夏「うん。あんな奴だけど、仲良くしてやって」
三好「わかった」
千夏「あ、アイツの名前は副島千夏だから」
三好「副島さん、か」
窓の鍵を閉めていく勇希。
それを手伝う三好。
真ん中の窓の鍵。
勇希と三好の手が重なる。
勇希「あ」
三好「なんか、ごめん」
勇希「い、いいよ。僕のほうこそ、ごめん」
三好「まさか重なるなんて。俺ら、やっぱ気が合うの
かな」
勇希「……え、今なんて……?」
三好「ううん。なんでもない」
勇希「そ、そう」
勇希M「胸はまだドキドキし続ける。初めて抱く感情
だ」
○同・玄関(夕)
勇希の下駄箱の中。折り畳まれている1枚の紙切
れ。
それを開く。千夏の文字。
千夏(声)「なにかしらの情報を入手するように!」
勇希N「面倒だなぁ……」
棒立ちしている勇希。
靴を履き、勇希の前に立つ三好。
三好「何やってるの? 早く帰ろうぜ」
勇希「あ、ごめん。うん、帰ろう」
○歩道(夕)
葉桜になった並木が続く歩道。
時折、車が行き来する。
三好の一歩後ろを歩く勇希。
勇希「ほかの人は、フルネームで覚えないの?」
三好「うん。今は苗字で精一杯。でも、毎日いたら
追々覚えるだろうな」
勇希「そうだよね。でも、同じ苗字いないから、しば
らくは苗字呼びをしても問題はなさそうだよ」
三好「あぁ、だよな」
妙な間。
勇希は右の拳を握りしめる。
小刻みに震える状態。
勇希「み、三好君、」
三好が振り返る。
そして、勇希の右手を掴む。
三好「苗字じゃなくて、陽馬って呼んで。俺、田代に
はそう呼ばれたい」
勇希「……!」
三好「呼んで」
勇希「陽馬……君」
三好「君はいらないのに」
勇希「ひ、陽馬」
三好「よくできました」
三好は、掴んでいた手をそのまま勇希の頭の上
に手を置く。
そして優しく撫でる。
勇希「ちょっ」
三好「もしかして、嫌だった?」
勇希「い、いや、こういうの、初めてで……」
三好「やった。勇希の初めて、俺が奪えたんだな」
満足そうに笑う三好。
勇希は頬を紅潮させる。
勇希「い、いま、名前」
三好「俺は陽馬って呼んでもらうんだから、勇希って
呼ばないと釣り合わないだろ?」
勇希「わ、わかった」
三好「今日からよろしくな、勇希!」
勇希「うん。こちらこそ、よろしくね、陽馬」
勇希は照れ笑いを浮かべる。
勇希N「最初は千夏の相手をするだけだという気持ち
が強かったのに、陽馬の隣を歩く時間が長くなるに
つれ、もっと素顔を知りたいという好奇心が上回っ
ていた」
陽馬が右手を挙げる。
勇希も右手を挙げる。
そして勢いあるハイタッチを交わす。
勇希N「陽馬の頬に咲いた桜の花はオレンジ色の太陽
に照らされて、濃いピンク色を放つようになってい
た」
軽く俯きながら歩く田代勇希(13)。
学ランを身に纏っている。
リュックを背負っている。
舞い落ちてくる桜の花びら。
勇希は空を見上げる。
勇希N「例年よりも早めに咲き揃った桜の花も大部
分が散り、今は葉桜の状態になっている」
足元に目を遣る。
少し濡れたアスファルトの上。
踏み潰された無数の桜の花びら。
勇希「(小声)踏まれて可哀想だな。でも」
再び見上げる。
桜の木に言うように、
勇希「今年も咲いてくれてありがとう」
軽く微笑む。
◯中学校・外観(朝)
◯同・廊下
吊り下げられているプレート。
2年1組の表記。
◯同・2年1組(朝)
誰もいない教室。
黒板に書かれている担任からのメッセージ。
綺麗に並べられた机。
空のロッカー。
何も貼られていない掲示板。
勇希N「新学期を迎える準備が整えられた空間は異彩
を放つ。静寂の中、教室の空気を吸うが、思わずむ
せてしまう。掃除されているはずの教室の隅に残さ
れた埃は寂しさを感じさせる」
黒板に貼られた座席表。
自分の席を確認する勇希。
見覚えのない苗字。
勇希「こんな人、いなかった、よな……?」
不思議がる勇希。
そのまま自分の席に座る。
リュックから1冊の小説を取り出す。
小説の表紙。
無数の小さな傷や折れ目が付いている。
勇希N「小学4年生のときに親からもらったお年玉で
購入した本。ジャンルはミステリー。今でも不思議
に思うのが、それまでミステリー、かたや小説なん
てものは、自分から選んで読んだことなどなかった
のに、その本は僕の心を奪ったということ」
1ページ目を捲る。
栞を右手に持つ。
勇希N「初めて読んだとき、よく分からないストーリ
ー展開に頭を悩ませた。ちゃんと理解したい。そう
思うようになった僕は、朝の読書の時間には、毎回
この本を読むようになっていた。それから早3年。
今でもその習慣が続いていて、他の小説に目移りす
ることは一切なかった。僕のお気に入りの一冊だ」
読み進めていく勇希。
ページを捲る音だけが聞こえている。
勇希N「ページの所々に付いた折皺やシミは、いつ付
いたかなんて、僕にも分からない。それでも、読書
の世界に入り込めば気にならないでいる。少し開い
た窓から入る春風は心地よいリズムで流れ込む。花
壇に植えられた花の匂いを感じながら、そのページ
を捲り続ける」
◯同・職員室(朝)
久保が座るデスクの近く。
そこに立つ三好陽馬(13)。
小刻みに首を振り続けている。
久保「説明は以上だ。何か分からんことはあるか?」
三好「いえ。大丈夫です」
久保「そうか。まあ、追々でいいから慣れろよ」
三好「はい」
◯同・廊下(朝)
数人の生徒が立ち話をしている。
ガヤガヤと騒がしい。
予鈴が鳴る。
◯同・2年1組教室(朝)
小説を閉じる勇希。
女子たちの妙に甲高い声色。
勇希、溜め息を吐く。
勇希N「朝礼開始の時刻が迫る教室にいる生徒たち
は、楽しそうに会話をしている。その会話を騒がし
いと思いつつも、微笑ましく聞いていると、誰かが
背後から僕の肩を叩いた」
成瀬「おはよっ、勇希!」
勇希「お、おはよう」
勇希N「こいつ、こんなテンションだったっけ?」
成瀬は勇希の前に立つ。
机に両手を置き、勇希の顔を覗き込む。
成瀬「なっ、知ってるか? うちのクラスに転校生来
るらしいぜ」
眼鏡の奥の目を光らせる成瀬。
気分を高揚させている。
勇希N「勝手に女子が来ると決めつけているのか、
やはり浮かれているように見える。見覚えも、耳に
したこともない苗字は転校生の名前なのか」
勇希「いやぁ知らないけど。それ、どこ情報なの?」
成瀬「はぁあ? いやいや、玄関にはクラス分け、黒
板には座席表貼ってただろ? まさか、見てないと
か言わねぇよな」
勇希「(惚けて)自分の名前しか見てなかったわ。悪
いぃ」
軽いノリで手を合わせ、頭を下げる勇希。
成瀬は呆れつつ、明るい笑みを浮かべる。
成瀬「まあ、勇希らしいな」
勇希「ハハハ」
成瀬は他の輪の中に入っていく。
勇希N「教室は24人の生徒で溢れる。人数の割には狭
く感じる教室。全体的に成長しているからだろう
か」
女子のグループ。
大きな声を発し会話する副島千夏(13)。
その様子を遠目から見る勇希。
どこか羨ましそうにしている。
勇希N「僕が千夏と知り合ったのは、保育園に通って
いたころだった。家が近所にあり、千夏だけでな
く、千夏の姉も含めてよく一緒に遊んでいた。天真
爛漫な性格は今でも変わらず、中学生になってから
は男子ウケも女子ウケも良く、学校中で千夏を知ら
ない人はいないほどの有名人だ」
千夏は女子と笑い合っている。
勇希は両腕の中に頭を埋める。
勇希N「周りからは、勇希と千夏で付き合えばいいの
に、とかと言われるが、千夏とは友達以上、恋人未
満の関係性でいたいと思っている。千夏の気持ちを
聞いたことはないけど」
千夏に視線を送る勇希。
振り返る形で勇希を見る千夏。
千夏「今年も一緒でよかった! よろしくね!」
千夏は勇希に手を振る。満面の笑み。
にこやかに笑い、手を振り返す勇希。
勇希「おう、よろしくな!」
千夏は不格好なウインクを返す。
軽く笑う勇希。
勇希「(小声)あ、かわいい」
勇希N「千夏はいつまで経ってもウインクができな
い。それも愛おしい」
本鈴が鳴り響く。
教室前方のドアが開く。
静まり返る教室。
クラスメイト全員の視線が向く。
生徒名簿を手に入ってくる久保。
クラスメイトA「(小声)うわ、最悪」
クラスメイトB「(小声)でも、面白いからいいじゃ
ん」
クラスメイトA「(小声)えー、私は無理。嫌い」
そう言って項垂れるクラスメイトA。
クラスメイトBは半笑い。
勇希N「中に入ってきたのは、8割厳しく、2割面白い
と有名な久保先生。派手なネクタイが印象的な先生
だ」
教団の前に立つ久保。
久保「チャイム鳴っただろ」
慌てて座るクラスメイトたち。
勇希の右隣りは空席のまま。
久保「今から新しい仲間を紹介します。中入って」
久保は視線を前方ドアに向ける。
クラスメイトも視線を送る。
俯きながら入ってくる三好。
緊張した足取り。
リュックを抱えた状態で教卓の横に立つ。
勇希「……!」
勇希N「どこか根暗そうに見えるが、俯き加減の顔か
らも分かる、中学二年生とは思えない美貌の持ち
主。女子人気は間違いない顔だろう。その生徒から
は、眩しいぐらいにキラキラとしたオーラが放たれ
る」
勇希「(小声)眩しっ……」
久保「自己紹介して」
三好は顔を上げる。
女子数名が息を呑む。
三好「三好陽馬です。お願いします」
綺麗に頭を下げる三好。
勇希「……!」
勇希N「自己紹介した彼の声は高く、クールな顔と声
のギャップは激しく、僕は一瞬にして心を射抜かれ
てしまった」
三好は頭を上げる。
久保「みんな、三好君と仲良くするように」
クラスメイトたち「はい」
久保は勇希の右隣の席を指す。
久保「あそこの席に座って」
三好「はい」
小さな歩幅で歩いてくる三好。
クラスメイトA「イケメン」
クラスメイトC「カッコいい」
女子の心の声が漏れる空間。
三好を見る目が輝いている。
椅子に腰かける三好。
久保は開いていた名簿を閉じる。
そして脇に抱える。
久保「各自、始業式が行われる体育館に移動。出席番
号順に並ぶように」
クラスメイトたち「はい!」
久保が教室を出て行く。
席を立つクラスメイトたち。
ゆっくりと腰を上げる勇希。
同じタイミングで三好も立ち上がる。
○同・廊下(朝)
ぞろぞろと列を成して廊下を歩く。
勇希は最後尾にいる。
勇希N「皆が仲いい人たち同士で列を成し、体育館へ
と移動していくが、やはり転校生に興味があるの
か、イケメン好きな女子生徒を中心に、彼の周りに
群がったまま進んでいく。男たちが羨ましがるほど
に」
勇希の前を歩く千夏。
輪の中心付近で仲間を盛り上げている。
勇希「やっぱ千夏も興味あるよな。イケメンだし」
無心に歩き続ける勇希。
その背後から肩に手を置く千夏。
勇希が振り向く。
千夏はニヤニヤと笑いながら勇希のことを見ている。
千夏「誰があの転校生君に興味があるの?」
勇希「……!」
勇希は目を真ん丸とさせる。
勇希「え、まさか」
千夏「聞こえてないとでも思ったの?」
勇希「え、聞こえる声で言ってた?」
千夏「うん。でも、他の人たちには聞こえてないと思
うよ」
勇希「ならいいけど」
苦笑いを浮かべる勇希。
千夏は変わらずニヤニヤとしたまま。
千夏「それより勇ちゃん、何か考えごとでもして
た?」
勇希「なんで」
千夏「私の後ろを歩いてくる勇ちゃんを一回呼んだん
だけどね、反応がなかったから、そのまま勇ちゃん
の後ろに回って、肩叩いたの」
勇希「叩かなくても、千夏の声で呼ばれたら絶対反応
するって」
千夏「嘘。さっき反応しなかったじゃん。だから何
か考えてることでもあるのかな~って」
勇希「いや、何も考えてねぇよ」
千夏「私には、そうは見えなかったけどなぁ」
小首を傾げる千夏。
勇希は右指で顎を触り続ける。
勇希N「考えていることがあるとすれば、転校生、三
好陽馬の存在だ」
勇希の隣を歩き始める千夏。
そのまま勇希の顔を覗き込む。
千夏「勇ちゃん、転校生君のことどう見る?」
勇希「どう見るって言われてもな、分かんねぇ」
千夏「私はね、あの転校生君は、努力すれば勉強も運
動もできるし、一時期はモテモテなんだろうけど、
なぜか人気者にはなれないタイプかなって思う。何
となくパッとしないと言うか。んー、何考えてるか
分からないから、その辺、色々気になる人物だな」
勇希「そう見てんだ。ま、千夏がよければ、それで良
いんじゃね?」
千夏「えっ、なんか他人事すぎて嫌なんですけど」
勇希「そんなことないだろ」
素っ気ない態度を取る勇希。
勇希の前を歩く千夏。
振り返りながら勇希に問い続ける。
千夏「ねえどう思う? どう思う? ねえ勇ちゃん」
勇希「(軽い怒り)だから、千夏みたいに分からねぇ
んだよ。ほら、早くしねぇと久保先生に怒られるぞ」
勇希は千夏の背中を軽く押し出す。
反動で体が前のめりになるも、姿勢を戻す千
夏。
勇希の方を見ながら前へ走っていく。
千夏「(意地を張る)そんな態度取ってたら女子に嫌われるよ!」
勇希「(意地を張る)こんな態度取ってんのは千夏だ
けだって。ほかの女子にはしねぇよ!」
前方で群がり続けるクラスメイトたち。
千夏はその輪の中に消えていく。
勇希N「開いた窓から舞い落ちてきた淡いピンク色の
花弁。僕の掌に落ちる。そして誰かが呟いた。Ne
m’oubliez pas|《ヌ・ムビリエ・パ》」と」
○同・2年1組教室(夕)
着席しているクラスメイトたち。
生徒たちの机の上。大量の手紙が置いてある。
教壇の前に立つ久保。
手には紙の束を持っている。
久保「最後に、保護者の方の同意が必要な手紙を回
す。来週までに返事を貰ってくるように」
クラスメイトたち「はい」
久保は前列の生徒たちに紙を配っていく。
前から順に渡されてくる紙。
三好、受け取ってから机に伏せる。
それを横目で見る勇希。
久保「明日から本格的に授業が始まるからな。元気に
登校するように。以上」
クラスメイトD「起立」
立ち上がるクラスメイトたち。
クラスメイトD「礼」
クラスメイトたちはバラバラに頭を下げる。
久保「気を付けて帰れよ」
生徒名簿を手に教室を出て行く久保。
単独行動を始めるクラスメイトたち。
会話する声が教室内に響く。
三好は再び机に伏せる。
手紙には皺が寄っている。
勇希「みんな、渡された教科書を机の上に出したまま
教室を出て行ったり、リュックやらスクールバッグ
やらを背負い、教科書を全てロッカーに放り込んだ
あとに教室を出て行ったりと、全体としてまとまり
がない状態にしていく」
立ち上がる勇希。
教室後方に設置されているロッカー。
落書きがされている。
勇希は出席番号が貼られたロッカーに教科書
を入れていく。
ロッカーの壁に彫られた愛羅武勇の文字。
勇希「(呟き)愛羅武勇って……なんでここなんだ
よ」
最後の1冊を入れ終えた勇希。
立ち上がろうと腰を上げる。
その瞬間、千夏が勇希の右腕を掴む。
勇希は振り向き、千夏の顔を見る。
勇希「何してんだよ」
千夏「(小声)静かにしてよ」
勇希「(小声)何? どうしたの?」
千夏「(小声)なんで転校生君に話しかけないの?」
勇希「(小声)なんでって言われても、困るって」
軽く溜め息を吐く千夏。
勇希の腕は千夏に握られたまま。
静かに腰を上げる三好。
そのまま後方にある掲示板のほうへ歩く。
千夏と勇希は気付いていない。
千夏「(小声)困らないでよ。例えば、出身はどこで
すかー? とか、そんな感じで話しかければいいん
だから」
千夏は掴む手を離す。
隙を見て立ち上がる勇希。
三好がいることに気付く。
勇希「あ……」
千夏「ラッキー」
勇希の肩に両手を乗せ、叩く千夏。
勇希「痛っ」
千夏「んっ!」
勇希「え、い、今から話しかけろってか?」
千夏「今しかないでしょ。みんな帰ってくし。ほら、
行った行った」
勇希の背中を力強く押す千夏。
反動で三好に当たりそうになる勇希。
三好「……!」
勇希「あっ、ごめん!」
咄嗟に頭を下げる勇希。
少し微笑む三好。
三好「彼女と仲いいんだな」。
戸惑う勇希。
さらに微笑む三好。
三好「田代勇希君、だろ?」
小首を傾げる三好。
勇希の胸が高鳴る音。
平然を装う。
勇希「あぁ、あいつとはただの幼馴染なんだ」
三好「へぇ、そうなんだ」
千夏は女子2人と話している。
窓から空を眺めながら。
勇希「それより、もうフルネームで覚えてるんだね。
なんで?」
三好「なんで、って、まぁ、君だけ特別な存在に見え
たから、かな」
はにかむ三好。
勇希「そ、そうなんだ」
三好「うん」
勇希M「胸の奥にチクチクとした何かが刺さった。で
も、同時にトキメキもあった。なにこの感情?」
勇希の顔を真正面から見つめる三好。
勇希の頬が軽く赤らんでいる。
三好「ねえ、よかったら俺と一緒に帰ってくんね?」
勇希M「一緒に帰る……、僕と?」
三好「無理か……?」
勇希「あ、ううん。いいよ。一緒に帰ろ」
三好「やった!」
喜びを露にする三好。
勇希は千夏に視線を向ける。
勇希「千夏、今日部活ないだろ? だったら――」
千夏「(わざとらしく)忘れてたッ、私、部活の関係
で職員室に行くんだった~! ごめん~! また明
日ねっ!」
足早にリュックを背負い、教室を出て行く千
夏。
クラスメイト女子2人も後を追うように出て行
く。
焦り顔の勇希。
三好は笑みを浮かべている。
三好「彼女、おもしろいね」
千夏「うん。あんな奴だけど、仲良くしてやって」
三好「わかった」
千夏「あ、アイツの名前は副島千夏だから」
三好「副島さん、か」
窓の鍵を閉めていく勇希。
それを手伝う三好。
真ん中の窓の鍵。
勇希と三好の手が重なる。
勇希「あ」
三好「なんか、ごめん」
勇希「い、いいよ。僕のほうこそ、ごめん」
三好「まさか重なるなんて。俺ら、やっぱ気が合うの
かな」
勇希「……え、今なんて……?」
三好「ううん。なんでもない」
勇希「そ、そう」
勇希M「胸はまだドキドキし続ける。初めて抱く感情
だ」
○同・玄関(夕)
勇希の下駄箱の中。折り畳まれている1枚の紙切
れ。
それを開く。千夏の文字。
千夏(声)「なにかしらの情報を入手するように!」
勇希N「面倒だなぁ……」
棒立ちしている勇希。
靴を履き、勇希の前に立つ三好。
三好「何やってるの? 早く帰ろうぜ」
勇希「あ、ごめん。うん、帰ろう」
○歩道(夕)
葉桜になった並木が続く歩道。
時折、車が行き来する。
三好の一歩後ろを歩く勇希。
勇希「ほかの人は、フルネームで覚えないの?」
三好「うん。今は苗字で精一杯。でも、毎日いたら
追々覚えるだろうな」
勇希「そうだよね。でも、同じ苗字いないから、しば
らくは苗字呼びをしても問題はなさそうだよ」
三好「あぁ、だよな」
妙な間。
勇希は右の拳を握りしめる。
小刻みに震える状態。
勇希「み、三好君、」
三好が振り返る。
そして、勇希の右手を掴む。
三好「苗字じゃなくて、陽馬って呼んで。俺、田代に
はそう呼ばれたい」
勇希「……!」
三好「呼んで」
勇希「陽馬……君」
三好「君はいらないのに」
勇希「ひ、陽馬」
三好「よくできました」
三好は、掴んでいた手をそのまま勇希の頭の上
に手を置く。
そして優しく撫でる。
勇希「ちょっ」
三好「もしかして、嫌だった?」
勇希「い、いや、こういうの、初めてで……」
三好「やった。勇希の初めて、俺が奪えたんだな」
満足そうに笑う三好。
勇希は頬を紅潮させる。
勇希「い、いま、名前」
三好「俺は陽馬って呼んでもらうんだから、勇希って
呼ばないと釣り合わないだろ?」
勇希「わ、わかった」
三好「今日からよろしくな、勇希!」
勇希「うん。こちらこそ、よろしくね、陽馬」
勇希は照れ笑いを浮かべる。
勇希N「最初は千夏の相手をするだけだという気持ち
が強かったのに、陽馬の隣を歩く時間が長くなるに
つれ、もっと素顔を知りたいという好奇心が上回っ
ていた」
陽馬が右手を挙げる。
勇希も右手を挙げる。
そして勢いあるハイタッチを交わす。
勇希N「陽馬の頬に咲いた桜の花はオレンジ色の太陽
に照らされて、濃いピンク色を放つようになってい
た」

