(一)この世界ごと愛したい





ハルは自分の大刀を片手に取り。



抑えきれない怒りを、この場へ向ける。





「この国中の人間全員呼んで来い。リンの犠牲の上でのうのうと暮らしやがって。俺がリンの痛みを教えてやる。」


「お、おやめ下さい!陛下!」





今にも暴れ出さんとするハルの前に。


剣を抜き立ちはだかったるう。




そんなるうを、ハルは今までにないほど冷たい目で睨む。






「そうだな、まずはお前だ。」


「……。」


「話によれば、お前もリンとセザールへ行ってたって?」


「ああ。」


「…お前にリンを渡さなくて正解だった。」





ハルはそう言って、るうに向かって大刀を振り下ろす。




周囲はもう慌ただしく避難する。


城を破壊するかの如く暴れるハルを、とにかく止めようと尽力するるう。





「何ですぐに連れ戻さなかった。」


「っ…リンの覚悟を、踏み躙ることはしたくなかった。」


「そのために誰だか知らねえ奴に嫁がせたって?お前の気持ちなんて薄っぺらいもんだな?」


「俺はリンを守るために着いて行ったんだ。」





ハルの思いも。るうの思いも。


それぞれ正解なんてないにも関わらず、二人の思いは交わることなく交差する。





「何をどう守ればこうなる。結局お前もリンを傷付けた一人に違いねえぞ。」


「…否定はしねえ。けど、俺はそれでもリンを側で守り続けたかった。」


「調子の良いことばっか言ってんじゃねえ。お前はただリンから離れられなかっただけだろうが。」


「頭に血上りすぎだ馬鹿。誰が好き好んで他の男と結婚する女を追い掛けて行くんだよ。」