「今すぐ兵をお引きください。」
「ああ、そうしよう。」
「王の亡き骸も渡すわけにはいきません。」
「ほう、この私に追加で交渉か。面白い。」
「この戦は和睦という形で終戦してください。」
「亡き骸はいらん。それに姫さえ手に入れば、戦果もまたどうでもよい。」
セザール王は、王妃の要求を次々に是として流す。
国としての交渉としては、これ以上望むことはないだろう。
ここで、母としての願いが溢れる。
「先程仰っておられました、婚姻についてですが、お相手は…?」
「ああ、我が国第三の王子だ。」
「娘は…幼少から秀でた戦の才がありました。なので、妻としての振る舞いや教養など、通常の女性が歩む道は知りません。」
「……。」
「粗相もあるでしょうが、どうか大らかな目で見守って下さい。決して傷つけることなどないよう願います。娘は、自由気ままに生きることを好みます。出来る限り行動の自由をお与えください。」
突然、愛する夫を失い。
愛する娘を失う母の気持ち。
心からの母の懇願に、その場にいる自国の兵は涙を流し膝から崩れ落ちていく。
命懸けで国と娘を守ろうと戦った亡き王を、敗戦の王にさせることもせず。
見事、国を守るための苦渋の決断をした王妃を責めることなど…誰にもできなかった。
こうしてアレンデールはこの戦いで、偉大なる王と、戦神アテナの化身とされる姫を失うことになった。

